国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 新証券税制のスタート 3
第25回 新証券税制のスタート
3
今回は「新証券税制のスタート」の3回目になります。
(6)譲渡損失の繰越控除
株式等の譲渡による所得は、一年間の取引を総合して売買損益を計算しますが、損失が生じた場合には、その損失を他の所得と相殺(損益通算)することはできません。今回の改正では、平成15年1月1日以降に上場株式等を譲渡した場合の損失のうち、その年の上場株式等の譲渡益と相殺しきれない分は、翌年以降3年間にわたり、その後の株式等の譲渡益から差し引くことができることとされました。繰越控除の適用があるのは、上場株式等を証券会社で譲渡した場合に限られ、未上場株式の譲渡損失や相対取引による上場株式等の譲渡損失は繰越控除の対象になりませんが、繰り越した譲渡損失は、未上場株式や上場株式等の相対取引による譲渡益と相殺することもできます。
なお、繰越控除の適用を受けるためには、損失が生じた年分の所得税について、確定申告書を提出し、その後も連続して確定申告をする必要があります。
(7)購入額1,000万円までの株式譲渡益非課税の特例
平成13年11月30日から平成14年12月31日までに購入又は払込みにより取得した上場株式等を、平成17年1月1日から平成19年12月31日までの間に譲渡した場合には、その譲渡した上場株式等の購入対価の額の合計が1,000万円に達するまでのものについては、譲渡益の全額が非課税とされます。この株式等は、購入時及び譲渡時ともに上場株式等に該当するものに限られます。
なお、この優遇措置の適用を受けるためには、「特定上場株式等非課税適用選択申告書」(取引報告書等を添付)を譲渡した年の翌年3月15日までに税務署に提出しなければなりません。
(8)特定口座・申告不要制度の特例
特定口座とは、個人が証券会社に一定の要件を充たす[特定口座]を開設し、この「特定口座」を通じて上場株式等を譲渡した場合には、証券会社が譲渡損益を計算し、証券会社から送付される「年間取引報告書」を確定申告書に添付することにより、簡易な申告ができる制度です。また、「特定口座」を開設した人が源泉徴収の方法を選択した場合には、証券会社が譲渡益の発生する都度、15%の税率による所得税を徴収し、確定申告をしないこともできます(住民税は別途5%が賦課されます)。そして、源泉徴収の方法を選択して確定申告をしない場合には、控除対象配偶者の所得金額の判定に当たり、株式等の譲渡益を所得金額に算入しないことができます。もっとも、[1] 1年超保有の上場株式等を譲渡した場合の100万円特別控除、[2] 1年超保有の上場株式等を譲渡した場合の暫定税率(10%)、[3] 譲渡損失の繰越控除を適用する場合のほか、[4] 「特定口座」以外で株式の譲渡損が生じたとき、[5] 「特定口座」内で年初に譲渡益が出たにもかかわらず、年間を通ずると損失となった場合などについては、確定申告をすることによって既に徴収された所得税の清算をした方が税金の計算上有利となります。
なお、平成14年9月から同年12月30日まで(準備期間)に、特定口座の申込みをした場合には、[1] 平成5年1月1日以降に購入した株式等は買付価額、[2] それより以前に購入した株式等はみなし取得費、[3] 平成13年9月30日以前に入庫した株式等はみなし取得費でそれぞれ管理されます。みなし取得費は、米国同時テロ直後の安値となった株価を反映しておりますので、バブル期に高い値段で購入した株式等を売却すると、譲渡損失が生じているはずですが、みなし取得費を適用すると譲渡益があることになり、所得税と住民税が課税されることになります。所得課税の大原則は、「所得なきところに課税なし」ですが、特定口座を準備期間に開設してみなし取得費が適用される場合には、計算上の利益が出ることになりますので、注意する必要があります。
(注)平成14年11月27日には、「特定口座制度」等の見直しに関する税制改正が行われました。主要な事項は次のとおりです。
(1) 特定口座において「源泉徴収有り」を選択した場合には、源泉徴収税額を毎月納付する仕組みが採られておりますが、これを改め、平成16年1月から年漢文を一括して納付する仕組みが採用されます。
なお、平成15年分の源泉徴収税額は、還付申告が不要となるよう、年末段階で調整される仕組みが採用される予定です(別途、法律改正が行われる)。
(2) 特定口座への株式の移管期間を1年間延長し、平成15年中の開設の際においても、保護預かり口座からの株式の移管が可能となります。
(3) 平成4年12月末以前に取得された株式を特定口座に移管する場合には、一律的な「みなし取得費」が適用されることになっておりましたが、これを改め、顧客勘定元帳等により、買付後引続き保護預かりされていることが確認できる場合には、保護預かり口座から実額で移管することができることとされます。
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