国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 事業所得と給与所得の区分
第30回 事業所得と給与所得の区分
事業所得とは、各種の事業から生ずる所得をいい、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいうと定義されております。そして、事業所得は総収入金額から必要経費を控除して算出されますが、給与所得は収入金額から給与所得控除額を差し引いて計算する仕組みが採られております。このように、事業所得と給与所得とでは、所得金額の算出方法等が異なりますので、専属的な役務の提供に係る所得などについては、それが事業所得に当たるか又は給与所得に当たるか、両者の所得区分が問題となる場合が少なくありません。裁判所は、「給与所得とは、雇用又はこれらに類する原因に基づき非独立的に提供される労務の対価として受ける報酬及び実質的にこれに準ずる給付を意味し、報酬と対価関係に立つ労務の提供が、自己の危険と計算とによらず、他人の指揮命令に服してなされる点に、事業所得との本質的な差異がある」といっております。つまり、両者の区分のメルクマールは、使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価であるかどうかということになるのでしょう。
具体的にみてみましょう。
力士の報酬…朝青龍が今年の初場所で優勝し横綱になりましたが、横綱の月給は282万円、場所毎の特別手当が20万円、昇進に伴い日本相撲協会から名誉賞100万円が贈られるそうですが、これらは給与所得になります。日本相撲協会から支給されるものは、横綱、大関などの関取のランクによって報酬が定まっておりますから、給与所得に該当するのです。もっとも、力士がスポンサーから贈られる金品や地方巡業に出場した場合の収益の分配金は、事業所得に該当することになります。
プロ野球の選手の報酬…シーズンオフになると、選手の契約更改が行われ、年俸が新聞報道されます。前年に大活躍した選手は、年俸が一気に数倍となる反面、故障などで不本意な成績に終わった選手は、年俸が半減するなど、悲喜こもごもの光景が見られます。このように、プロ野球選手の報酬は、選手の技能の進歩や成績あるいは人気の高低によって大きく左右することから、給与所得になじまず、事業所得とされるのです。
外交員の報酬…固定給とされる部分は給与所得に該当しますが、募集成績に応じて決められる報酬は事業所得に該当します。勧誘のための交通費などの費用が自腹であり、勤務時間や場所などが会社から拘束されないから、その報酬は事業所得とされるわけです。
弁護士の顧問料…弁護士が会社との顧問契約に基づく法律相談は、法律専門家である弁護士活動の一環とみれらますので、通常、顧問料は事業所得に該当します。一般的に言って、弁護士は、顧客の求めに応じて自己の危険と計算に基づいて業務を行っているのであり、顧問先との間では雇用契約におけるほど従属性・拘束性がないと解されるのです。したがって、顧問契約の内容によっては、給与所得に該当する場合も否定できません。最高裁判所は、弁護士の顧問料の所得区分について、「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは、雇用契約又はこれらに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。」と判示しているのです。
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