国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 給与所得者の特定支出
第40回 給与所得者の特定支出
給与所得は、給与収入から一定の税額が源泉徴収されますが、その年の給与所得の総額に対する税額と源泉徴収された税額との過不足については年末調整により精算されますが、給与所得者が勤務に直接必要な特定の支出をした場合に、その年中の特定支出の合計額が給与所得控除額を超えるときは、確定申告により、その超える部分を特定支出控除として控除することが認められています。
この制度は、特定支出の負担を余儀なくされるサラリーマンの負担を考慮し、給与所得者についても確定申告の途を拓くこととする趣旨で設けられたものです。その契機として、サラリーマン税金訴訟(最高裁大法廷昭和60年3月27日判決)があります。
この裁判では、背広代、クリーニング代、散髪代、書籍代等の勤務に必要な職業費を給与所得から控除すべきであり、この実額控除を認めていない所得税法の合憲性が争われたのです。
最高裁判所は、「給与所得者の職務上必要な諸設備、備品等に係る経費は使用者が負担するのが通例であり、職務に関し必要な旅行や通勤の費用に充てるための金銭給付、職務の性質上欠くことのできない現物給付などが概ね非課税所得として扱われていることを考慮すれば、給与所得者において自ら負担する必要経費の額が一般に所得税法所定の給与所得控除額を明らかに上回るものと認めることは困難であって、給与所得控除の額は給与所得に係る必要経費の額との対比において相当性を欠くことが明らかであるということはできない」として、給与所得控除制度の合憲性を認めております。
ここで給与所得者の特定支出とは、給与所得者が負担する
[1]通勤費、[2]転任に伴う引越費用、[3]研修費、[4]人の資格取得費用、[5]単身赴任者の帰宅旅費
をいうのですが、これらの費用を給与所得者が支出した場合であっても、その支出について使用者により補填される部分があり、その補填される部分が非課税とされている場合には、その支出のうち補填される部分は除かれることになっております。
わが国の大部分の企業では、サラリーマンの通勤費や旅費は会社持ちとされており、その支給額が通勤や旅行に通常必要なものと認められるものは、非課税所得とされております。
また、研修費や人の資格取得費用は、職務の遂行に直接必要なものに限って特定支出の対象としております。
特定支出の金額が給与所得控除額を上回る人は、極めて例外的なサラリーマンです。今年6月の税制調査会中期答申「少子・高齢社会における税制のあり方」では、特定支出控除の範囲を検討し、給与所得者にも確定申告して経費を実額控除する機会を増加させることが適当であると言っております。
特定支出控除の内容を拡大する代わりに、給与所得控除額を縮小するというのですから、特定支出の証明ができないサラリーマンは増税となるわけです。
2003.6.30
関連するコラム
-
2024.10.15
橋本 浩史
消費税法2条1項8号の「対価を得て行われる」(対価性)の意義が争われた税務判決 ~名古屋地方裁判所令和6年7月18日判決TAINS Z888-2624(控訴)~
1 はじめに 消費税法2条1項8号は、消費税の課税対象である「資産の譲渡等」とは、「事業として対価を…
-
2024.09.30
山田 重則
Q 近年、新聞報道された過大徴収事案にはどのようなものがあるか?
A 近年、新聞報道された主な過大徴収事案は、下表のとおりです。ここから読み取れることは、①過大徴収は…
-
2024.09.29
山田 重則
固定資産税実務Q&A
<総論> Q 固定資産税の過大徴収はどの程度起きているか? Q 近年、新聞報道された過大徴収事案には…
-
2024.09.28
山田 重則
Q 固定資産評価審査委員会の決定が誤っていた場合、自治体は賠償責任を負うか?
A 自治体による固定資産の評価額(登録価格)を法的に争うには、まずはその自治体の固定資産評価審査委員…