国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 打切り支給の退職金

第42回 打切り支給の退職金

 雇用形態が多様化・流動化している今日、年俸制を導入する企業や退職一時金から年金制に移行する企業が少なくなく、既に一部の企業では、制度の移行に際して過去の勤務期間に応ずる退職金を精算支給しているようです。

 この場合の退職金は退職所得に該当するのでしょうか。所得税法上の退職所得とは、「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与」をいい、給与所得者が退職に際して元の勤務先から受ける一時金がこれに該当します。

 したがって、退職という事実がない場合に支給する一時金は、退職所得に該当しないのではないかという疑問が生ずるのです。しかし、引続き勤務する者に支給する一時金であっても、従業員が役員に昇任した場合に従業員分の退職金を支給するなど、退職金を支給することについて合理的な理由がある場合には、その退職金は、所得税法に規定する「これらの性質を有する給与」に該当するということができます。

 所得税基本通達30-1では、引続き勤務する者に対する退職金であっても、その者が実際に退職する時の退職金の計算上その給与の計算期間の基礎となった勤続期間を一切加味しないという条件の下で支払われるのものは、退職所得として取り扱うこととしております。これを退職金の打切り支給といい、次のものがあります。

1. 新たに退職給与規程を制定し又は相当の理由により従来の退職給与規程を改正した場合における改正前の勤続期間に係る退職金

2. 使用人から役員になった者に対してその使用人であった勤続期間に係る退職金

3. 役員の分掌変更等により変更後の報酬が激減した者や職務の内容・地位が激変した者に対して変更前の勤続期間に係る退職金

4. 定年に達した後引続き勤務する使用人に対し定年に達する前の勤続期間に係る退職金

5. 労働協約等を改正して定年延長を行った場合における旧定年に達する前の勤続期間に係る退職金

6. 法人が解散した場合において引続き役員又は使用人として清算事務に従事する者に対して解散前の勤続期間に係る退職金

 以上の取扱いと同様に、退職金制度を廃止することなどに伴って、引続き在職する者に対して過去の勤務期間に応ずる退職金を支給することには、合理的理由があると認められますので、その打切り支給の退職金も退職所得に該当することになるでしょう。
2003.7.20

関連するコラム