国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 退職所得控除
第44回 退職所得控除
退職金制度は丁稚から手代・番頭を経て支配人となり年季(年季奉公)を明けて独立する際の「のれん分け」あるいは女中奉公の「嫁入り仕度」から生じたものと言われております。
その性格については、
在職中の功績に報いるもの(功績報償説)
退職後の生活を保障するもの(生活保障説)
在職中の低賃金を補てんするもの(賃金後払説)などがあります。
退職所得はそれが長年の勤務に対する報酬であるとともに、退職後の長期にわたる生活の支えになるという点で税金負担能力が低く、このため退職所得の金額は退職手当等から退職所得控除額を差し引いて算定した上、その2分の1を他の所得と分離して課税の対象とするのです。
そして、退職所得控除の金額は、勤続20年までは1年につき40万円、勤続20年を超える部分は1年につき70万円とし、勤続年数が長くなるほど、退職控除額が膨らむ構造が採られております。
例えば、勤続30年で退職金3,000万円を受け取ると、退職所得控除額が1,500万円、課税対象の所得金額が750万円、所得税額は約117万円となります。
仮に、この3,000万円が賞与であったとして計算すると、所得税額は700万円強になるわけですから、退職金課税の優遇さが分かります。
なお、上記によって計算した退職所得控除額が80万円に満たない場合には80万円が控除額(最低控除額)となりますし、障害者となったことに直接基因して退職した場合には、控除額に100万円が加算されます。
今年6月の政府税制調査会の中期答申「少子・高齢社会における税制のあり方」では、「退職所得控除については、雇用の流動化が進展する中で、多様な就労選択に対し中立的な制度とする必要がある。
従来と比べ個人所得課税の累進構造が緩和されていることや、最近の企業年金の普及等の状況を踏まえ、過度な優遇を是正するとともに、給与、退職一時金、年金間の課税の中立性を確保していくべきである。」と述べております。
退職所得控除については、在任期間の短い役員等に対して、報酬を少なくする代わりに退職金を手厚くし、所得税の負担を軽減することに活用されているなど、課税上の弊害も指摘されているところです。
単に、退職所得控除額を引き下げて課税の強化を図るのではなく、短期間にのみ在職する人の退職所得を定年まで勤務する人と同様の方法で算出するのが良いかなど、多様な視点から退職所得控除の見直しが進められていくべきものと考えます。
2003.8.4
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