国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 譲渡所得の意義
第45回 譲渡所得の意義
譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいいますが、「たな卸資産(たな卸資産に準ずる資産を含みます)の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産」の譲渡による所得は、譲渡所得から除かれます。
譲渡所得に対する課税は、保有期間中における資産の値上り益(キャピタルゲイン)について、その資産が売買等により所有者の支配を離れて他に移転する機会に、その保有期間中の値上がり益に相当する所得の実現があったものとして一時に課税するものです。そして、譲渡所得の金額は、その総収入金額から取得費と譲渡費用の合計額を控除し、その金額(譲渡益)から更に特別控除額(50万円)を差し引いて計算します。
このように、譲渡所得は、その発生形態が非回帰的、不規則的であることから、継続的に発生する所得との担税力の差を考慮して、長期保有の資産に係る譲渡所得に対しては、超過累進税率を緩和するために2分の1課税とされるなどの措置が採られております。
したがって、資産の譲渡による所得であっても、一時的、偶発的な所得ではないものは、譲渡所得の範ちゅうから除外されることになるわけです。このため、「たな卸資産(たな卸資産に準ずる資産を含みます)の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産」の譲渡による所得は、譲渡所得から除外し事業所得又は雑所得に該当することにしているのです。
以上は、所得税法の規定に基づいて譲渡所得の金額を計算する場合ですが、譲渡所得の太宗を占める土地や建物の譲渡による所得は、所得税法の計算規定によらずに、租税特別措置法により申告分離課税とされております。土地や建物の譲渡による所得が事業所得又は雑所得に該当する場合には、他の所得と総合して課税されますが、それが譲渡所得に該当する場合には、譲渡益の20%(ほかに地方税6%)の分離課税となるわけです。
そこで、資産の譲渡による所得が事業所得又は雑所得に該当するか、それとも譲渡所得に該当するかという所得区分をめぐる争訟事案が少なくないのです。ここでの区分は、「営利・継続性」と「一時・偶発性」が重要な要素となるでしょう〔第35回参照〕。
なお、譲渡所得のもう一つの代表例である有価証券の譲渡による所得については、事業所得、譲渡所得又は雑所得のいずれに該当する場合であっても、申告分離課税とされており、所得金額の計算においても大きな差がありませんので、他の資産の譲渡による所得のように所得区分をめぐる争いはほとんど見られないところです。
2003.8.20
関連するコラム
-
2024.09.13
橋本 浩史
外国子会社合算税制の適用除外要件(非関連者基準)の適用の可否が争われた税務判決 ~最高裁令和6年7月18日判決(日産自動車事件)(裁判所WEBサイト)~
1 はじめに 外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)とは、法人の所得に対する税負担がゼロ又…
-
2024.07.12
橋本 浩史
法人が支出した取締役の損害賠償金の損金算入の可否が争われた税務判決の紹介 ~横浜地方裁判所令和6年1月17日判決TAINS Z888-2558~
1 はじめに 法人が、その取締役が他の法人の取締役としての職務を怠ったことを理由に負担した会社法42…
-
2024.06.14
橋本 浩史
相続後に条件成就して実現した債務免除益に対する所得税課税の可否が争われた税務判決の紹介 ~東京高等裁判所令和6年1月25日判決(上告)~
1 はじめに 相続時に相続財産から控除されなかった訴訟上の和解に基づく債務が、相続開始後に条件成就に…
-
2024.05.13
橋本 浩史
賃貸人以外の者から受領した「損失補償金」が「資産の譲渡等」の対価に該当し消費税の課税対象となるか否かが争われた税務訴訟判決の紹介 ~広島地方裁判所令和6年1月10日判決TAINS Z888-2557(確定)~
1 はじめに 消費税は、物品やサービスの各取引段階において付与される付加価値に着目して課税するもので…