国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 財産分与と譲渡所得

第47回 財産分与と譲渡所得

 夫婦が離婚したことに伴い、その一方が他方に対して財産分与(民法768条)をしたことは、譲渡所得にいう「資産の譲渡」に当たるでしょうか。
 財産分与請求権の性格については、
[1] 婚姻中の夫婦財産関係の清算
[2] 婚姻後における一方配偶者の扶養
[3] 生前相続
[4] 制裁
[5] 損害賠償(慰謝料)
などのいろいろな説があるようですが、財産分与の内容は夫婦共有財産の清算であるとすれば、形式的には夫の所有財産が妻に移転するように見えても、その実質は妻の潜在的権利を顕在化させたにすぎず、「資産の譲渡」には該当しないという考え方もできます。
 共有財産の分割(現物分割)の場合には、税の実務上、原則として「資産の譲渡」には該当しない旨の取扱いがあります(前回参照)。
 また、財産分与により資産を取得した人は、財産分与請求権と引換えに資産を取得したということもできるから、その分与によって取得した財産が分与額として相当なものであれば贈与税の対象としない取扱いもあります。
 財産分与が「資産の譲渡」に当たるかどうかは、見解の分かれるところです。
 この点に関して、最高裁判所の判決(昭和50年5月27日、民集29巻5号641頁)では、「財産分与の権利義務の内容は、当事者の協議、家庭裁判所の調停若しくは審判又は地方裁判所の判決を待って具体的に確定するが、右権利義務そのものは、離婚の成立によって発生し、実体的権利義務として存在するに至り、右当事者の協議等は、単にその内容を具体的に確定するものにすぎない。
 そして、財産分与に関し右当事者の協議等が行われてその内容が具体的に確定され、これに従い金銭の支払い、不動産の譲渡等の分与が完了すれば、右財産分与の義務は消滅するが、この分与義務の消滅は、それ自体一つの経済的利益ということができる。
 したがって、財産分与をして不動産等の資産を譲渡した場合、分与者は、これによって分与義務の消滅という経済的利益を享受したものというべく、譲渡資産について譲渡所得を生じる」旨判示しております。
 財産分与による資産の移転があった場合、分与者は「分与義務の消滅」という経済的利益を享受できるというのですが、判決が経済的利益の発生をどのように捉えているのか、慰謝料債務の履行と同様に一種の代物弁済と考えているのかどうか、必ずしも明確ではありません。
 なお、所得税の基本通達では、財産分与による資産の移転については、分与者が財産を分与した時においてその時の価額により資産を譲渡したことになる旨を明らかにしております。
2003.10.1

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