国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 譲渡代金の回収不能
第55回 譲渡代金の回収不能
譲渡所得の金額の計算における総収入金額とは、その年中に行われた資産の譲渡による「収入すべき金額」のことをいいますから、譲渡代金の全部又は一部が未収となっていたとしても、その未収金を含めたところで譲渡所得の金額を計算することになります。
もっとも、譲渡代金が未収であり、その後に未収金の全部又は一部を回収することができなくなったときには、その回収不能の金額に相当する所得を享受していないことになるのですから、譲渡所得としての課税は是正されるべきものです。
そこで、所得税法64条1項では、各種所得の金額のうち、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に係る所得を除き、その収入金額の回収不能が生じた場合には、回収不能に係る部分の所得はなかったものとみなすこととしております。
ここで、総収入金額の全部又は一部を回収することができなくなった場合とは、会社更生法等の規定により債権の全部又は一部が切り捨てられた場合のほか、債務者の資産状況、支払能力等からみて債権回収の見込みのないことが確実となった場合をいいます。
この点に関し、大阪地裁昭和57年7月16日判決は、「所得税法64条1項の規定の趣旨は、有償譲渡の対価の全部又は一部がやむを得ない事情で回収不能となったときには、回収不能となった部分の金額だけ低い価額の対価で譲渡したのと同様となり、それだけ譲渡所得の金額も縮減されるべきである」とした上で、譲渡代金の回収が不可能であることを知りながら、あえて資産を譲渡したような場合には、右にいう「やむを得ない事情に該当しないから、同条項を適用することはできない。」旨判示しております。
この判決では、代金の回収不能であることを承知して資産を譲渡したということは、譲り受けた者に対して利益を供与したことになると評価しているのです。
この考えに従えば、譲渡代金の全部が回収不能であることを承知しながら個人に資産を譲渡すると、それは個人に対する資産の贈与に該当するので、譲渡所得の課税が生じないことになります(前回参照)。
また、同様に、譲渡代金の一部が回収不能であることを承知しながら個人に資産を譲渡すると、その資産の譲渡は低額譲渡に該当しますから、回収不能の金額を除外したところで総収入金額を計算することになるわけです。したがって、判決の論理によれば、譲渡先が個人である場合には、所得税法64条1項に当たるかどうかを議論する余地がないとも考えられます。
なお、資産の譲渡代金が回収不能となった場合には、その事由が生じてから2ヶ月以内に後発的な事由による更正の請求をすることになります。
2004.1.20
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