国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 相続債務の履行と譲渡所得

第57回 相続債務の履行と譲渡所得

 「保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の譲渡所得の特例」は、保証債務の履行をする目的で資産を譲渡した場合に限って適用されるのであって、単に債務を弁済するために資産を譲渡しただけでは適用できません。つまり、他人の債務を保証していることが大前提となるのです。例えば、相続により取得した財産が債務超過であったため、その相続財産である資産を売却して債務を履行したとしても、所得税法64条2項の適用があるわけではないのです。もっとも、相続により承継した債務の中に保証債務があって、その保証債務を履行するために資産を売却したのであれば、同条項の特例を適用することが可能となります。そうすると、連帯保証人が主たる債務を相続した後に資産を譲渡し、その債務を弁済した場合には、どのようになるのでしょうか。
 所得税法64条2項に規定する「保証債務の履行」があった場合とは、民法446条に規定する保証人の債務又は同法454条に規定する連帯保証人の債務の履行があった場合のほか、[1]不可分債務の債務者の債務の履行があった場合、[2]連帯債務者の債務の履行があった場合、[3]合名会社、合資会社の無限責任社員による会社の債務の履行があった場合、[4]身元保証人の債務の履行があった場合、[5]他人の債務を担保するため質権もしくは抵当権を設定した者がその債務を弁済し又は質権もしくは抵当権を実行された場合、[6]法律の規定により連帯して損害賠償の責任がある場合において、その損害賠償金の支払があったときも含まれることとされております。したがって、連帯保証人の債務の履行も右にいう「保証債務の履行」に該当するわけですから、連帯保証人が主たる債務を相続した場合であっても、連帯保証人の立場で債務の履行をし資産を譲渡をした以上は、所得税法64条2項の適用があるという見解も出てくるのです。この点について、東京高裁平成7年9月5日判決では、「同条項が適用されるためには、保証債務の履行に伴う経済的負担を回復するために法律上付与された権利のいずれもが実効性を有しない場合であることを必要する」とした上で、「弁済のほか、相殺、混同など弁済と同視すべき事由によって求償権が消滅したときには、求償権を行使することができない場合に当たらないから、同項の適用はない」旨判示しております。つまり、連帯保証人は、主たる債務を相続によって承継したことから、主たる債務者に対する求償権は自己を債務者とする債権となり、求償権自体が混同によって消滅してしまうと解するのです。このような事例では、相続を放棄して主たる債務者の地位を承継しない方法も選択肢となります。
2004.2.10

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