国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 保証債務の履行と更正の請求

第59回 保証債務の履行と更正の請求

 申告納税制度のもとでは、納税申告書に記載した課税標準等が過大であった場合には、納税者自らがこれを是正することはできず、税務署長の減額更正という職権発動を促す更正の請求制度が設けられております。更正の請求には、「通常の場合の更正の請求」と「後発的事由による更正の請求」とがありますが、「後発的な事由による更正の請求」は、申告時点ではその申告に誤りがなかったが、申告時に予知し得なかった事態その他やむを得ない事由がその後に生じたことにより、納税申告書に記載した課税標準等が過大となったことを理由とするものです。この「後発的な事由による更正の請求」の一つとして、所得税法には、保証債務を履行するために資産を譲渡し、その履行に伴う求償権の行使が不能となったときには、その事実が生じた日から2ヶ月以内に行使不能となった金額に相当する譲渡収入の減額を求めて更正の請求ができる旨の規定が置かれております。
 したがって、保証債務の履行のために資産を譲渡し、その譲渡所得について確定申告している場合には、保証債務の履行に伴う求償権が行使不能となった日から2ヶ月以内に更正の請求をしなければ譲渡所得の課税を免れることはできないのです。このため、保証債務の履行のために資産を譲渡し、その求償権が行使不能であるとして更正の請求をする事例においては、求償権が行使不能となった時期が極めて重要となるのです。課税庁では、主債務者が破産等に至らず事業を継続していると求償権の行使が可能であると解しておりますから(前回参照)、主債務者が事業を継続している場合には、どの時点で更正の請求をしたら良いかが問題なります。課税実務の考えに従う限りは、主債務者に対してこまめに弁済を促し主債務者が倒産等に至るまで待った上で、その事実が生じたときから2か月以内に更正の請求をするか、それとも、主債務者が倒産等に至る前に求償権を放棄して2ヶ月以内に更正の請求をするしか方法がないのでしょうか。法人の代表者が求償権を放棄することにより法人の再建を目指す場合や、廃業に向かいつつまだ法人が解散に至らない場合にあっても、保証債務の求償権の行使不能における譲渡所得の計算特例(所得税法64条2項)を適用できる旨取り扱われておりますから(平成14年12月25日)、保証債務を履行した人が主債務者の事業継続中に求償権を放棄しても、その放棄は贈与と見られないでしょう。ただし、この場合でも、放棄時点において求償権の行使が不能であったか否かが改めて問われるでしょう。この計算特例は、求償権の行使不能が生じたことにより、キャピタル・ゲインに対する担税力が喪失したという観点から、譲渡所得課税を行わないこととしているのですから、求償権の行使不能という事実を厳格に解することには賛成できません。
2004.3.22

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