国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 求償権の行使不能の判定
第60回 求償権の行使不能の判定
東京高裁平成16年3月16日判決では、「所得税法64条2項の特例は、求償不能という異例の事態について租税政策上の見地から特に課税上の救済を図った例外的規定であると解されるから、本件特例を適用するに当たっては、条文を厳格に解すべきであり、本件特例を基礎付ける事実の主張立証責任は、その適用を受けようとする者にあるというべきである。」旨判示しております。この事案は、連帯保証人の地位を承継した相続人が相続した資産を10億円余の代金で譲渡し、その全額を代位弁済に充てたことにつき、所得税法64条2項の適用の可否が争われたものです。原審の東京地裁平成15年4月25日判決は、求償権の行使は不能であるとして納税者の請求を認めたのですが、高裁判決は、上記のように述べた上で、主たる債務者は、保証債務を履行するために資産の譲渡があった年分の所得税の確定申告期限において、企業として存続して事業を行っていたのであるから、債務を弁済する能力を有していたと判断し、保証債務の履行に伴う求償権は行使可能であると結論づけております。高裁の見解は妥当でしょうか。
所得税法64条2項の規定は、同条1項の規定とともに、昭和37年の税制改正で初めて設けられたもので、税制調査会では、「通常の消費生活において予期しない異常な損失があった場合には、所得を基準として課税する制度だけでは、その損失が実際上その担税力を低下させているにもかかわらず、これを課税に反映させる途がない。したがって、この種の異常な損失については、特別に課税上配慮を加えることが担税力に即応した公平な課税を実現するゆえんである。」旨述べているところです(昭和36年12月「税制調査会答申及び審議内容と経過の説明」550頁参照)。「担税力に即応した公平な課税を実現する」ための規定であるのに、「租税政策上の見地から特に課税上の救済を図った例外的規定」であるということができるでしょうか。このような立法がされる前の事案について、最高裁昭和49年3月8日判決(民集8巻2号186頁)では、「権利確定主義のもとにおいて金銭債権の確定的発生の時期を基準として所得税を賦課徴収するのは、実質的には、いわば未必所得に対する租税の前納的性格を有するものであるから、その後において課税対象とされた債権が貸倒れによって回収不能となるがごとき事態を生じた場合には、先の課税はその前提を失い、結果的に所得なきところに課税したものである。」旨判示しております。この理は、所得税法664条2項の解釈にも当てはまるものと思われます。高裁判決のように、同条項の適用を厳格に解しますと、折角の立法も空振りに終わるのではないでしょうか。
2004.4.10
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