国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 一時所得に関する裁判例

第63回 一時所得に関する裁判例

 一時所得の所得区分が争われた主な裁判例には、次のものがあります。
 福岡地裁昭和62年7月21日(訟務月報34巻1号187頁)及びその控訴審である福岡高裁昭和63年11月22日判決(税務訴訟資料166号505頁)では、電力会社の委託検針員が委託契約の解約に当たって受けた解約慰労金は、退職所得ではなく一時所得に該当すると判示しております。その骨子は、委託検針員が受ける委託検針手数料収入が給与所得ではなく事業所得に該当するとした上で、「解約慰労金は、その沿革としては委託検針契約による委託手数料の清算ないし追加払いとしての性質というよりも、むしろ労働組合の運動に基づき、給与労働者の退職手当、厚生年金の一時金に相当するものとして実現されてきたものと認められ、そうすれば、委任ないし請負契約である委託検針契約終了の際の特別の合意に基づき支払われる、いわゆる所得源泉のない所得と解すべく、一時所得に該当するとの帰結もやむを得ない。」と判示しているのです。また、名古屋地裁平成4年9月16日判決(判例時報1470号65頁)及びその控訴審である名古屋高裁平成5年9月22日判決(税務訴訟資料198号1132頁)では、土地区画整理組合から交付された宅地整備補償金名義の金員は、土地価額の高騰により実際の保留地予定地の処分価額が事業計画上の保留地予定地の処分価額を大幅に上回ったことによって生じた余剰金等の分配であり、実質的には、組合の解散に伴う清算手続を経ない組合の残余財産の分配であるから、一時所得に該当するとしております。いずれの判決も、一時所得の要件である「労務その他役務の対価としての性質を有しないもの」(非対価的要件)を広く解釈していないのです。
 一方、ストック・オプションの権利行使益の所得区分をめぐる訴訟では、給与所得説と一時所得説とに裁判例が二分しております。そのうち、権利行使益は給与所得に該当する判断した東京高裁平成16年2月19日判決では、ストック・オプションは従業員等の労務の提供と不可分の関係にあるところ、従業員等は、権利行使によって付与会社が有していた株式の時価と権利行使価格との差額相当の経済的利益(含み益)を享受するのであるから、権利行使益は給与所得に該当すると理解しております。この判決については、[1]ストック・オプション(株式購入選択権)は、付与契約により付与時に従業員に移転しているのに、何故に権利行使時に付与会社から従業員等に含み益が移転するのか、[2]親会社の株価に連動して含み益が実現しているところ、何故に従業員等が子会社に対して提供した労務の対価となるかなど、多くの疑問が残ります。
2004.5.28

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