ストックオプション税務訴訟 裁決を受けられた方々へ

1  はじめに
   報道によれば、ストック・オプションの課税に関して、100件以上の審査請求が国税不服審判所に上がっているようです。そして、昨年12月末頃から、国税不服審判所が請求人の請求を棄却する裁決を下し始めています。
 裁決書を見ると、請求人の主張にはほとんど触れず、相手方(国側)の主張をコピーして張り付けたような内容になっており、非常に残念であると思いました。これについては機会があればいずれ解説させて頂きたいと考えております。
 今回は、裁決を受けた方々に知っておいて頂きたい注意点についてお話ししたいと思います。


 訴訟提起までの期間
   訴訟は、裁決があったことを知った日から3か月以内に提起しなければならないことになっています。「知った日」とは、現実に裁決の存在を知った日とされていますが、自分でこの日に受取ったのですという証明をしないと、配達を受けた日が「知った日」であるとされます。
 そして、この3か月という期間については、知った日の当日も入れて計算しなければなりません。つまり、1月15日に裁決の存在を知った場合には、4月14日までに提訴しなければならないことになります。
 その期間を過ぎてしまうと、その後に訴訟を起こしても、不適法な訴えであるとして「却下」されてしまうことになります(簡単に言えば、内容の判断に入る前に門前払いされてしまうということです。)。そうなると、一切の権利を失ってしまうことになりますので注意が必要です。
 以上のとおりですから、もし裁決の内容に納得できないというご判断をされるのであれば、裁決を受取った日から3か月以内に必ず管轄の地方裁判所(東京都内にお住まいの方であれば東京地方裁判所です。)に訴訟を提起して下さい。


 ご自分では訴訟を起こされなかった場合
   誤解されている方が多いのですが、西岡郁夫さんらが訴訟で勝ったとしても、ご自分で訴訟を提起されていない方々について、当然に税金は戻って来ません。
 裁判の効力は訴訟上の当事者にしか及ばないというのが大原則です。ですので、西岡郁夫さんらが訴訟に勝ったとしても、他の方々にその判決の効力が及ぶわけではないのです。
 以前、当事務所においでになられた方の中に、「西岡さんらの判決が確定してから2か月以内に申請すれば税金が戻って来るのでしょう」と仰る方がいらっしゃいました。恐らく、国税通則法23条2項第1号の「更正の請求」のことを仰っているのだと思います。確かにこの条文は、判決が確定(または和解が成立)した日の翌日から数えて2か月以内であれば更正の請求ができるということを規定しています。しかし、これは税額の計算の基礎となった事実に変動が生じたような場合などに適用される規定です(例えば、ある財産がどちらに所属するのか争いがあって民事上裁判になっていたのが、和解で決着したような場合です。)。法令の解釈について判例により新しい判断が示された場合にはこの規定は適用されません。つまり、ある人が裁判で新しい解釈を勝ち取った場合に(今回の場合で言えば、ストック・オプションの行使利益が「一時所得」であるとの判断を裁判所がした場合です。)その他の人が更正の請求ができる、と規定したものではないのです。
 このように、ご自分で訴訟を提起されないと、西岡郁夫さんらが訴訟で勝ったとしても、「税金を返して欲しい」と請求する権利は発生しません。
 もし返って来ることがあるとすれば、税務署のほうが、その裁量により減額更正をして来る場合だけです。しかし、税務署がわざわざ減額して来るとは考えにくいのが実状です。しかも、減額更正については法定申告期限から5年以内という期間の制限がありますから、それを過ぎてしまうと、税金が返って来る可能性は一切なくなります。

 以上の点についてご注意頂いた上、今後訴訟を提起されるかどうかのご判断をされて下さい。
(文責 弁護士 間瀬まゆ子)