民事信託の動向

 一般紙にも民事信託が取り上げられることが多くなった。民事信託の公正証書作成件数が2018年は2223件で、2019年はさらに増加傾向であるそうだ。民事信託を扱う者としては、「こんなものか」という程度の感想しか持たないが、顧客の間でも高齢者の財産管理手法として認知度が高まっているとの実感がある。民事信託契約書は必ずしも公正証書にする必要はないが、民事信託をきちんと動かすには、信託専用口座を作る必要がある。その口座を開設してくれる金融機関では、公正証書にすることを求められることがほとんどだ。だから、「きちんとした」民事信託の取組は上記数字に近いものだろう。ただ、民事信託は信託された財産だけを保護するもので、信託されていない財産は保護しない。さらに、保護するのは財産だけであって、高齢者の身上は保護しない。他の制度と総合的に考えることが肝要だ。

  前からわかっていることだが、人口における高齢者割合は増え、そのうちの独居者割合も増える。増えるだけでなく、この層には資産が偏在しているから、個人市場では唯一の成長市場だ。このことは、まっとうな事業者にとってもそうであるが、裏では、詐欺集団のような反社会的勢力にとっても成長市場である。まっとうな事業者にとって、判断力が衰えた高齢者は対象から外さざるを得ないが、反社会的勢力にとっては絶好の獲物になる。だから、高齢独居者の支援が欠かせない。親族がいればその支援を頼めばいいが、独居者はそうはいかない。そこで、士業を中心としたプロの支援者の出番となる。事業者は自社のプロダクトを売る前に顧客の支援を考えるべきだし、その際プロの支援者との連携も欠かせない。