連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク第85回 法人等がその役員等に対してした債務免除に係る債務免除益について、その法人等は源泉所得税を徴収する必要があるか。

 当社は、創業者でもある代表取締役Xに対して、長年に亘り多額の金銭を繰り返し貸し付けていましたが、昨年、Xからその所有する土地を購入し、貸付額から購入代金を控除した残貸付金10億円を債務免除しました。

 今年の税務調査で、Xが受けた債務免除益は給与所得に該当し、当社は所得税法183条1項により、源泉所得税の納付義務があると指摘されましたが、このような指摘は正しいのでしょうか。

 

1 債務免除益の給与所得該当性

質問のような事例において、最近の最高裁判決は、所得税法28条1項が定める給与所得は、雇用契約等に基づき提供した労務又は役務の対価として受ける給付をいい、「金銭のみならず金銭以外の物や経済的な利益も含まれる」とした上で、当該事例では、法人が役員に多額の金員の貸付けを繰り返し行ったのは、役員が法人の役員としての職務を行っていたことによるものであり、法人が役員に対して債務免除を行なったのは、法人に対する役員としての貢献が考慮されたことがうかがえるとして、当該債務免除益は給与所得に該当すると判断しました(最高裁H27・10・8判決)。このように、個々の具体的な役務提供行為と対価関係のある給付でなくても、雇用契約等に基づく受給者の地位ないし職務に対応・関連する給付であれば、給与所得に該当することがあるので注意が必要です。

2 債務者が資力を喪失している場合における給与所得該当性

役員に対する債務免除益が給与所得に該当するとしても、債務免除を受けた債務者が資力を欠いており、債務の弁済が著しく困難であるような場合には、例外的に債務免除益を給与所得における収入金額に算入しないという取扱いが認められており(旧所得税基本通達36-17)、上記最高裁判決でもこの点が問題となりました。

この基本通達は平成26年税制改正により廃止されましたが、趣旨を同じくする所得税法44条の2が定められたので、現在でもこの点が問題になります。

3 まとめ

以上のように、役員等が法人等から受けた債務免除益が給与所得に該当するか(法人等に源泉所得税の納付義務があるか)は、①当該債務免除益が雇用契約等に基づき提供した労務又は役務の対価としての性質を有するか否か、②債務者である役員等が「資力を喪失している場合」に該当するか否か、によって判断されることになります。 

鳥飼総合法律事務所 弁護士  橋本浩史

※ 本記事の内容は、執筆時現在の法令等に基づいています。

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