連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第80回 破産手続開始決定後も会社は存続しているのですからその会社の株式の譲渡損は計上できますよね・・・

 

 破産手続開始決定後も会社は存続しているのですからその会社の株式の譲渡損は計上できますよね・・・

 

Q 取引先(非上場)がこのたび破産手続開始決定を受けてしまいました。私はその会社の株式を保有していたのですが,これ以上もっていても仕方がないので,せめて譲渡損を計上して税務上のメリットを享受しようと思い,申告をお願いしている税理士さんに1株あたり1円の備忘価格で買い取ってもらうことを検討しています。知り合いの弁護士さんのお話ですと,破産手続開始決定を受けた会社は破産手続きが終了するまでは清算法人として存続しているということでしたので,まだその会社の株式は法的には消滅していないのですから,譲渡損を計上しても問題ないですよね? 

 

A 問題があります。株式の発行会社の破産等により個人が所有する株式の価値が失われたとしても,それによる損失は原則として他の株式等の譲渡益や給与所得など他の所得の金額から控除することはできません。したがいまして,その会社が今後再生することが確実であるといったような事情でもない限り,譲渡損の計上はできません。

 

 [解説]

 株式の譲渡損を計上するには,譲渡時において,その株式に経済的価値が認められなければなりません(東京高裁平成18年12月27日判決・月報54-3-760など)。専門的にいうと,譲渡損を計上するには,譲渡した株式が譲渡時において譲渡所得の基因となる「資産」(所得税法33条1項)といえるものである必要があります。

 確かに,ご指摘のように,会社は破産手続が開始しても清算がなされるまでは存続し,その結果その会社の株式も法的には消滅しません。しかしながら,破産手続開始後には配当も望めませんし,破産管財人が一手に権限を握りますので,議決権を行使することももはやないといってよいでしょう。このような場合には,現実的にみれば経済的価値はもはやないといって差し支えなく,実際,現在の裁判実務もそのように取り扱われています(東京高裁平成27年9月3日判決・公刊物未掲載)。株式の法的な権利が存続しさえすれば,その株式の経済的価値もいまだ存続する,というものでもないのです。したがいまして,ご質問のケースでは,今後その会社が再生して株式の価値が復活することが誰の目にも明らかだといったような特別の事情のない限り,譲渡損を計上することはできません。

 なお,特定口座で管理されている上場株式等については,上場廃止となった日以後,特定管理株式又は特定保有株式に該当していた場合で,その株式を発行した株式会社に清算結了等の一定の事実が生じた時は,その株式の譲渡があったものとして,その株式の取得価額を譲渡損失の金額とみなす特例があります(租税特別措置法37条の10の2)。取扱いが随分と異なっていますが,これは上場株式等への投資を促進するために設けられた極めて政策的な取扱いで,特定口座で管理されている上場株式等にだけ許されている例外的な取扱いになりますので,取扱いを混同なされないようにして下さい。

鳥飼総合法律事務所 弁護士 西中間 浩

※ 本記事の内容は、平成27年3月末現在の法令等に基づいています。

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