連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク第82回 国税関係の全ての契約書の保存はスキャナ保存で対応できますか?
国税関係の全ての契約書の保存はスキャナ保存で対応できますか?
Q 弊社では,書面の電子保存(スキャナを利用して作成された電磁的記録による保存)を進めており,全ての契約書や領収書について,紙での保存はやめて,電磁的記録のみで保存したいと考えています。契約書や領収書は国税に関する法律の規定のより一定期間の保存が義務付けられていますが,紙の契約書等は破棄しても電磁的記録として保存をしていれば,法令上問題はないでしょうか。
A 2015年の税制改正で,同年9月30日以後に行うスキャナ保存に係る証人申請分から,国税関係の全ての契約書および領収書ならびにこれらの写しについて,一定の要件を充たす場合は,スキャナ保存(スキャナを利用して作成された電磁的記録による保存)で対応できることになりました。したがいまして,後述の一定の要件を具備することにより,全ての契約書や領収書をスキャナ保存のみとしても,税法上問題は生じません。
[解説]
1.2015年の税制改正によるスキャナ保存の対象となる国税関係書類の範囲の拡充
国税関係書類のスキャナ保存制度は,2005年の税制改正により改正された「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(電子帳簿保存法)等により,創設された制度です。
2015年の税制改正までは,契約書や領収書については,契約金額または受取金額の額が3万円(税込)未満のものでなければ,スキャナ保存が認められませんでした。このような対象書類の範囲が限定されていることやその他のスキャナ保存の要件の厳しさなどから,なかなか普及せず,民間企業等から要件緩和についての要請がなされていました。それらの状況を踏まえ,2015年の税制改正でスキャナ保存の対象となる国税関係書類の範囲の拡充等がなされました。
なお,範囲の拡充が適用されるのは,2015年9月30日以後に提出するスキャナ保存の承認申請書に係る国税関係書類について適用されます。
2.スキャナ保存の要件の概要
真実性の確保のため,電子帳簿保存法施行規則で定められている,①入力期間の制限,②一定水準以上の解像度及びカラー画像による読み取り,③タイムスタンプの付与,④読取情報の保存,⑤ヴァージョン管理,⑥入力者等の情報の確認,⑦適正事務処理についての要件などを満たすことが必要です。
また,可視性の確保のため,電子帳簿保存法施行規則で定められている,①帳簿との相互関連性の確保,②見読可能装置の備付け,③電子計算機処理システムの開発関係書類等の備付け,④検索機能の確保についての要件などを満たすことが必要です。
要件等の詳細については,国税庁の下記HPを参照されるとよいでしょう。
①電子帳簿保存法関係パンフレットhttps://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/sonota/02.pdf
②電子帳簿保存法Q&A(平成27年9月30日以後の承認申請対応分)
https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/dennshichobo/jirei/07_2.htm
3.おわりに
2016年度税制改正の大綱では,国税関係書類うち契約書、領収書等の重要書類の受領等をする者がスキャナで読み取りを行う場合のスキャナ保存に係る承認の要件の見直しが提案されています。また,その他に,①スキャナについて原稿台と一体となったものに限定する要件の廃止や,②スキャナに係る階調(色や明るさの濃淡の段階数)の要件について、デジタルカメラ、スマートフォン等の機器に対応した取扱いを行うことなどが,提案されています。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 堀 招子
※ 本記事の内容は、執筆時現在の法令等に基づいています。
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