連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第61回 相談役に就任した元社長に支給された役員退職金を損金算入できるか?
Q 当社は,私の父が設立した同族会社であり,設立以来40年間にわたり父が代表取締役社長を務めていましたが,この度,私が代表取締役社長に就任し,高齢の父には代表取締役を辞任してもらい,相談役に就任してもらいました。そこで,当社は,父に対して,長年の功績に鑑み,2億円の役員退職金を支給することとしました。この退職金は当社の損金に算入できるのでしょうか。
A
1 役員の分掌変更等の場合の退職給与
内国法人が,退職した役員に対して支給する退職給与(役員退職金)は,「不相当に高額な部分の金額」を除き,損金の額に算入されます(法人税法34条2項)。問題は,質問のケースのように,従前の代表取締役が相談役や監査役に就任するなどの分掌変更があった際に打切り支給された役員退職金を損金算入することができるか否かです。
この点,法人税基本通達9-2-32は,法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に支給した役員退職金が,その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し,実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には,退職給与として扱うことできるとし,その例示として,①常勤役員が非常勤役員になったこと,②取締役が監査役になったこと,③分掌変更等の後におけるその役員の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと,を挙げています。
注意すべきなのは,あくまでも判断基準は,「実質的に退職したと同様の事情にある」かどうかであり,以上の①から③はこの例示であるということです。したがって,例えば,①の場合でも,その非常勤役員が,代表権を有していなくでも,実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者に対して支給された役員退職金は退職給与に該当せず,損金に算入することができない可能性があります。このようなケースは,特に同族会社ではしばしば見受けられます。
2 「実質的に退職したと同様の事情」を裏付ける資料等の保存も重要
質問のケースでも,相談役に就任した父の職務内容,勤務時間,給与の額,金融機関に対する連帯保証の有無などから,「実質的に退職したと同様の事情にある」と認められれば,支給された役員退職金のうち適正な額の範囲で,御社の損金の額に算入することができます。
そして,このような「実質的に退職したと同様の事情にある」ことを裏付ける資料等を作成し,保管しておくことも実務的には重要であると言えます。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 橋本浩史
※ 本記事の内容は、平成26年3月末現在の法令等及び税制改正大綱に基づいています。
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