連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第59回 企業優遇税制の活用~所得拡大促進税制~
企業優遇税制の活用~所得拡大促進税制~
Q.今年(2015年)の春闘で、自動車や大手電機など多くの製造業をはじめとする大手企業が、10数年ぶりの大幅なベースアップを実施したことは記憶に新しいことと思います。製造業を営む中小企業たる我が社も、昨今の業績回復等を踏まえ、平成28年3月期から、従業員給与の賃上げに踏み切ることとしました。ところで、平成26年度税制改正及び平成27年度税制改正により、賃上げを実施した企業が利用できる優遇税制の要件が緩やかになったと聞きました。どのような要件を具備すれば利用できる制度なのでしょうか?我が社も利用できるのでしょうか?
A.平成25年度税制改正により、個人所得拡大のテコ入れ策の一環として、青色申告書を提出する法人を適用対象法人とした、「所得拡大促進税制」が創設されました(租税特別措置法第42条の12の4)。これは、従業員の給与等を一定以上増額した法人が、その支給増加額の10%について、法人税額の10%(中小企業等は20%)を上限として、税額控除できるという、税制優遇制度です。平成26年度税制改正により、平成30年3月末まで期限が延長されるとともに利用要件が緩和され、平成27年度税制改正により、利用要件が更に緩和されました。
現在の適用要件は以下の通りです。
【要件①】
雇用者給与等の増加率が、基準年度に比して以下の割合以上であること。
2013年4月1日~2015年3月31日に開始する事業年度 2%以上
2015年4月1日~2016年3月31日に開始する事業年度 3%以上
2016年4月1日~2017年3月31日に開始する事業年度 4%以上
(中小企業の場合、3%以上)
2016年4月1日~2017年3月31日に開始する事業年度 5%以上
(中小企業の場合、3%以上)
【要件②】
給与等支給額が、前事業年度の給与等支給額を下回らないこと。
【要件③】
1ヶ月あたりの平均給与等支給額が、前事業年度の平均給与等支給額を超えること。
御社が青色申告法人であり、御社の平成28年3月期の給与等支給額が、基準年度に比して3%以上増加しており、かつ、要件②及び要件③を満たしている場合、この優遇税制を利用することができます。なお、基準年度とは、平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち、最も古い事業年度の直前事業年度をいうところ、御社の基準年度は、平成25年3月期になります。
平成28年3月期において税額控除を受けるためには、確定申告書に、雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額、及びその明細等を記載した、別表六(二十)を添付すれば足り、事前に制度適用の申請等を行う必要はありません。ただ、確定申告書を提出した後に誤りが発覚した場合でも、修正申告等で控除を受ける金額を訂正することはできませんので、当初申告の際に漏れがないか、充分注意することが必要です。
なお、雇用者とはどの範囲の人を指すのか、雇用者給与等支給額には何が含まれるのか、平均給与等支給額の計算から控除されるものは何か等、詳細については、個々の事情に即した、個別具体的な確認が必要となりますのでご注意下さい。
鳥飼総合法律事務所 税務部パラリーガル 髙瀬貴子
※ 本記事の内容は、2015年3月末現在の法令及び税制改正大綱に基づいています。
※ 「リスクコンシェルジュ」連載全記事にはこちらからアクセスできます。
関連するコラム
-
2020.06.06
山田 重則
【固定資産税】「市街地宅地評価法」とその評価ミスを教えてください。
固定資産評価基準上、市街地的形態を形成する地域にある宅地は、「市街地宅地評価法」に基づいて評価が行…
-
2020.06.06
山田 重則
【固定資産税】宅地はどのような方法で評価されますか?
宅地とは、建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地をいいます。現に建物が建築され…
-
2020.06.06
山田 重則
【固定資産税】固定資産評価基準上、土地はどのような方法で評価されますか?
土地の評価方法は、地目(田、畑、宅地、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野、雑種地)によって異なります。…
-
2020.05.10
山田 重則
【固定資産税】何年前まで遡って過大な固定資産税相当額の返還を受けられますか?
固定資産の課税ミスがあった場合、地方税法に基づき過去5年間に過大に支払っていた固定資産税が還付され…