連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第57回 立証責任はどちらが負っているのか?

立証責任はどちらが負っているのか?

 

 現在,弊社は,税務調査を受けています。当社は,取引先に対する金銭債権について回収不能であったため「貸倒損失」としての損金算入を行っていたものがあるのですが,調査を担当している税務職員から,「そのように主張するのであれば,証拠を提出してください。損金算入というのは,納税者に有利な取扱いだから,会社に立証責任があるんですよ」といわれました。当社としては,これらを裏付ける証拠は提出しているのですが,認めてもらえません。損金算入を主張する場合には,納税者である当社がすべて立証しないといけないのでしょうか?

 

 結論からいいますと,その説明は不正確であり,誤りが含まれています。課税処分を行うためには,課税庁(税務署)の側で,「所得の存在及びその金額について」立証しなければならないと解されているからです(最高裁昭和38年3月12日判決・訟務月報9巻5号668頁)。

  ここにいう「所得の存在及び金額」について,法人税法の場合を考えてみましょう。法人税の課税物件である「法人の所得」(法人税法5条)について,税率を適用するために数値化した「各事業年度の所得の金額」が「課税標準」であるとされています(法人税法21条)。そして,課税標準である「各事業年度の所得の金額」はどのように計算されるかというと,「当該事業年度の益金の金額」から「当該事業年度の損金の金額」を「控除」するものとされています(法人税法22条1項)。

ということは,売上などの「益金の金額」のみならず,支出としての「損金の額」についても課税庁が立証責任を負うということです。なぜならば,法人税について,当該事業年度の「所得の存在及び金額」は,「益金の金額」の立証では足りず,そこから控除される「損金の金額」も立証しなければ,計算できないからです。

  この点で,損金についても,原則として,その不存在(ないこと)を課税庁が立証しなければならないものと解されています。もっとも,不存在(ないこと)の立証は容易ではありません。そこで,貸倒損失などの特別の経費については,「貸倒損失となる債権の発生原因,内容,帰属及び回収不能の事実等について具体的に特定して主張し,貸倒損失の存在をある程度合理的に推認させるに足りる立証を行わない限り,事実上その不存在が推定されるものと解するのが相当である。」と解されています(仙台地裁平成6年8月29日判決・税務訴訟資料205号365頁,仙台高裁平成8年4月12日判決・税務訴訟資料216号44頁,最高裁平成8年11月22日第二小法廷判決・税務訴訟資料221号456頁)。

  判決文の引用部分は,言い回しがわかりにくかったかもしれません。その意味するところは,納税者(会社)の側で,貸倒損失があったことをある程度予測できるような立証が求められる,ということです。いわば立証責任が転換されているのですが,貸倒損失の完全な立証まで納税者(会社)は求められていませんので,注意が必要です。納税者(会社)に求められるのは,あくまで「貸倒損失の存在をある程度合理的に推認させるに足りる立証」ということです。

  御社においては,これを裏付ける証拠を提出されているとのことですので,どのような証拠資料が提出されているのかは定かでありませんが,貸倒損失についての立証責任が完全に会社側にあるという説明は誤っていることになります。

もっとも,上記のように,裁判所はある程度の合理性について納税者(会社)に事実上,立証責任を転換してする解釈を認めていますから,何も証拠がない,というのでは困ります。この点には,注意が必要です。

 

 

鳥飼総合法律事務所 弁護士 木山 泰嗣

 

 

※ 本記事の内容は、平成26年3月末現在の法令等及び税制改正大綱に基づいています。

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