連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第55回 税務調査のやりとりを録音させて下さいといっただけで処分を検討すると言われたのですが・・・

税務調査のやりとりを録音させて下さいといっただけで処分を検討すると言われたのですが・・・

 

 当社に数年ぶりに税務調査が入ることになりました。昨今、納税者の立場にたった法律の改正がなされ、税務調査手続については、より透明性が求められるようになったときいております。とはいえ、実際の調査においてどこまでが適法な調査で、どこまで書類の提出や質問に応じなければならないのか、正直わからないというのが実際のところです。そこで調査官も録音されていると思えば無茶なことは言ってこないだろうと思い、このたび調査官に「やりとりを録音させて下さい」といったところ、「困ります。録音はご遠慮下さい。どうしても録音するというのであれば調査を拒否したものとみなし、しかるべき処分を検討させていただきます」と言われました。税務調査手続の透明性を図るということですし、適法な調査を行っているなら録音されても何も困ることはないと思うのですが、どうしてこのようなことを言われるのかさっぱりわかりません。調査官のいうとおり、録音にこだわっているとそれだけで課税処分をされるようなことは本当にあるのでしょうか?

 ありえます。調査官には調査の過程で知った秘密について守秘義務があるため、これを全うするために、税務調査のやりとりを録音するというなら調査を行わないといった判断を行ってもよいとされています。また、その判断の結果として、最終的に会計帳簿の備え置きの確認ができなかった場合、そのことを理由に、青色申告承認取消処分や推計課税の更正処分をおこなったとしても、その処分は適法とされています。もっとも、既に直近に違法調査がなされているような場合に、その繰り返しを防止するために録音を求めることまでもが正当とされないわけではありません。正当とされるケースなのかは判断の難しい問題ですので、税務調査に精通した専門家に相談されることをお勧めします。

 [解説]

1 録音を条件に調査に応じることを申し出てはいけない?

 調査官には調査の過程で知った秘密につき守秘義務があり(国税通則法126条)、これを全うするために、納税者から録音を条件に調査に応じる旨の申し出があった場合、これを拒否しそれ以降の調査を行わずとも問題がないとされています。

 その結果、帳簿の確認は当然できないこととなりますが、それをもって青色申告承認取消処分や推計課税等の更正もまた適法であると解されています(東京地裁H12.12.27税務訴訟資料第249号1319頁・名古屋高裁H17.09.14税務訴訟資料第255号-245(順号10126)等)。このような取扱いは最高裁判所で確立したものではありませんが、下級審の裁判例ではほぼ定着しており、実務上は,こうした下級審の裁判例を前提として対策を検討していくべきでしょう。

 上記のような処分に加え、調査官が調査に応じないことを知りつつあえてこのような申し出を行った場合、このような申し出をすること自体が、調査の拒否・妨害等にあたるとして刑罰が科される危険もあります(国税通則法127条2号・3号等)。

 調査官から、上記のような処分を示唆された場合や調査妨害と指摘された場合、次で述べるような特殊な事情がない限り、少なくとも調査の必要性が見いだせる範囲では、録音を条件とすることなく税務調査に応ずるように注意しましょう。

2 例外的に録音を申し出てもよい場合とは?

 録音の申し出が例外的に正当とされる場合もあります。たとえば直近に違法な調査がなされている場合です。そのような場合には、違法調査が繰り返される可能性が高いですから、これ以上の再発を防ぐために録音を条件に調査に応じることを申し出ることは正当であるとされることがあり得ます。このような場合、仮に調査官がかかる申し出を奇貨としてそれ以上の調査を行わず、青色申告承認取消しや推計課税の処分を行ってきたとしても、それらは違法な処分として最終的には取り消されうるものと考えられます(京都地裁H12.02.25税務訴訟資料第246号952頁(北村事件)参照)。

 もっとも、本当に直近の調査が違法なものであったと評価できるのかについては慎重な判断を要します。録音を条件に調査に応ずるなど、対決姿勢を調査官に対してとろうという場合には、事前に税務調査に精通した専門家に相談し、最終的な処分や刑罰のリスクを少なくした上で、違法調査を封じていく効果的な対策を練っていくべきでしょう。

鳥飼総合法律事務所 弁護士 西中間 浩

 

※ 本記事の内容は、平成26年3月末現在の法令等及び税制改正大綱に基づいています。

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