連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第47回 相続についての事業承継税制の適用と株券の発行
相続についての事業承継税制の適用と株券の発行
Q 私が代表取締役をつとめている株式会社は、非上場会社であり、定款で、当社の株式について株券の不発行を定めています。当社の株主は、前の代表取締役であった父と、息子の私の2名でしたが、平成26年2月、父が死亡し、父が保有していた当社の株式は、以前から当社の取締役であった私が相続し、私が代表取締役となりました。
父についての相続税の申告に際して、相続税の納税猶予の特例を利用したいのですが、担保を提供しなければならないそうです。そこで、私が保有する当社の株式を担保にしようと思うのですが、そのためには株券を発行しなければならないと聞きました。当社としては、そのような手続きが必要なのでしょうか。
A 相続税の納税猶予の特例を利用する際に、非上場株式を担保とする場合には、非上場株式の株券を、法務局(供託所)に供託することになります。そのため、株券が発行されていない会社については、株券を発行する必要があります。
ただし、平成27年1月1日以後に相続により非上場株式を取得した場合の相続税については、一定の書類を提出することにより株券を発行することなく非上場株式を担保として提供することができるようになります。
(解説)
非上場会社においては、会社の代表取締役が死亡した後は、その相続人である子や配偶者が当該会社の後継者となることが多くあります。
そこで、相続によって、先の代表者(被相続人)から、後継者(相続人)が非上場株式を取得して、その会社を経営していく場合には、一定の要件を備えることにより、後継者(相続人)が納付すべき相続税のうち、その株式等の一定の部分に限り、その部分に係る課税価格の80パーセントに対応する相続税の納税を猶予するという特例があります。
この特例によると、相続開始前に、会社が計画的な事業承継に係る取り組みを行っていることについて「経済産業大臣の確認」を受け、相続開始後に、会社の要件、後継者の要件、先代経営者の要件を満たしていることについて「経済産業大臣の認定」を受けることになります(これらの制度は、いわゆる「経営承継円滑化法」に基づきます。)。そして、この特例の適用を受けることを記載した申請書等を税務署へ提出し、担保を提供する、というような手続きが必要とされています。
ただし、平成25年度税制改正において、この「事業承継税制」が改正されました。
まず、平成25年4月1日以後に受ける認定については、相続開始前の「経済産業大臣の確認」の制度は廃止されましたので、確認の手続は不要です。
また、会社の要件、後継者の要件、先代経営者の要件の内容も改正され、原則として、平成27年1月1日以後に相続により取得する非上場株式等に係る相続税については、改正後の内容が適用されます(同様の改正は、贈与税についても行われています。)。
このように改正も行われていますので、事業承継に関心をお持ちの経営者や後継者は、まずは早期に専門家にご相談されることをお勧めします。
前述のとおり、この適用を受けるためには、納税者は、納税が猶予される相続税額及び利子税の額に見合う担保を提供することが必要です。担保として提供できる財産は、次のものです。
①納税猶予の対象会社の非上場株式(ただし、その株式の全部を担保提供する場合に限ります)
②不動産、国債・地方債、税務署長が確実と認める有価証券、税務署長が確実と認める保証人の保証など
非上場会社においては、株式を譲渡する際には会社の承諾を必要とすると定めることが多いですが、このような譲渡制限があっても、上記①の場合には、その株式も担保として提供できる財産として取り扱うことになっています。
そして、非上場会社の株式を担保として提供する場合には、株券を供託して、その供託書の正本を税務署長に提出することになります。そのため、株券不発行会社が、この特例の適用を受けるためには、定款変更・登記を行い、株券を発行することが必要とされています。
ただ、今は多くの中小企業が株券不発行会社となっており、事業承継税制を利用するためだけに、定款変更等を行って株券を発行することが、手間もコストもかかるとの不都合が指摘されていました。
そこで、平成25年度税制改正では、平成27年1月1日以後の相続においては、担保提供について、「納税者が所有する非上場株式について、税務署長等の質権を設定することを承諾した旨を記載した書類(自署押印したものに限る)」などの一定の書類を提出することにより、株券の発行を不要とする改正が行われました。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 佐藤香織
※ 本記事の内容は、平成26年3月末現在の法令等及び税制改正大綱に基づいています。
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