連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第44回 健診費用の会社負担額
第44回 健診費用の会社負担額
Q 当社では、毎年1回、提携しているクリニックで従業員に健診を受ける機会を設けています。健診の内容は、従業員の年齢により、40歳未満は生活習慣病健診、40歳以上は日帰り人間ドックとなっています(費用は会社負担)。ただし、会社の屋台骨となる従業員や役員には、特に業務に支障を来さず健康を保ってもらいたいので、部課長クラスについては通常の人間ドックに加え、オプションの脳ドック・肺ドックについても、また、役員クラスについてはオプションも含む1泊2日の宿泊ドックにつき、費用を会社で負担しています。 手厚い健診を受けてもらうのは会社に貢献してもらうためですが、何か問題となることはありますか? |
A 部課長クラスの脳ドック・肺ドック費用及び役員クラスの宿泊ドックについては、特定の従業員等に対する会社からの経済的利益に該当する可能性が高いものと考えます。また、経済的利益に該当した場合、役員については役員賞与となるため、法人の損金にも算入されません。
[解説]
1.健康診断費用の会社負担
事業者は、労働者に対し、健康診断を受けさせるべきことが定められているため(労働安全衛生法66条)、健康診断に係る費用は、当然に法人の損金となり、また、従業員は、当該費用につき、会社から経済的利益を受けたものとはみなされず、原則として給与課税されることはありません。
2.福利厚生費は従業員平等が原則
しかし、特定の従業員や役員に対してのみ、オプションの健診を会社負担で受けさせることは、特定の従業員等に対する経済的利益の供与に該当するものと考えられます。
ここで、健診の内容を年齢によって区別することと、特定の従業員等に対してオプションを受けさせることには別の趣旨があります。一般に年齢が高くなるほど、何らかの病気に罹患している可能性が高くなることから、上記の例でいえば、40歳という年齢の基準により健診内容が異なっていることについては、合理的な理由があります。40歳以上の公的医療保険加入者全員を対象とした特定健診(いわゆるメタボ健診)の制度があることからも、上記の基準の合理性がうかがわれます。
ところが、職種が同一であるとすると、上記の例のように、部課長クラス及び役員クラスについてのみ、通常の従業員よりハイレベルの健診が受けられるという制度は、合理的な理由がない限り、会社が、特定の従業員等に対し、経済的利益を供与しているものとみなされます。もちろん、役職者は会社にとってもかけがえのない存在であるでしょうし、万一長期休職ということになると痛手だとは思いますが、その点は給与の額や役職手当等で報いるべきものであり、福利厚生費として差をつけるべきものとはみなされないことに留意する必要があります。
特に役員の場合は、源泉所得税やご本人の所得税のみならず、法人においても役員賞与として損金に算入されないこととなりますので、留意が必要です。課税リスクを避けるためには、役員の方には、通常の従業員が受ける健診費用との差額分を、自己負担してもらうのがよいと考えます。
3.全員一律の高額健診料の場合は?
健診費用に差がある場合に、当該差額が経済的利益とみなされることについては上述しました。ところで、従業員全員がPET健診を受けられる会社があったとしたら、当該健診費用は会社からの経済的利益に該当するでしょうか。
がんの早期発見に役立つPET健診は、現在、一部健康保険が適用されるケースもありますが、予防のために行われる場合は、他の健診と組み合わせると数十万程度かかることが多いようです。まだまだ社会通念上一般的な健診とは言い難く、受診者全員に対し経済的利益が供与されたものとみなされるリスクは高いものと考えます。
鳥飼総合法律事務所 税理士 窪澤 朋子
※ 本記事の内容は、2014年8月現在の法令等に基づいています。
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