連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第42回 国税不服申立制度の見直し
第42回 国税不服申立制度の見直し
Q 弊社は約2か月(65日)前に税務署長に増額更正処分をされました。しかし,その理由に納得できず,不服申立てをしたいと考えています。処分から2か月が経過していますが,近時,法令の改正があり,不服申立期間が3か月に延長されたと聞きました。弊社の場合も,処分から3か月以内であれば,不服申立てを行うことができるのでしょうか。
A 国税に係る不服申立期間の延長を含む「行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」が,平成26年6月6日に成立し,同月13日に公布されました。しかし,施行は,公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日であり,現時点では施行されておりません。従いまして,処分から2か月が経過している本件の場合は,不服申立てはできません。
[解説]
1.国税不服申立制度の見直し
平成26年6月6日に成立した「行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」では,国民の利便性の向上を図るため,国税通則法の改正がなされ,①不服申立てをすることができる期間の延長,②二重前置主義の見直しなどが実現することになりました。
2.不服申立てをできる期間を2か月から3か月に延長
⑴ 現行
現在,不服申立ては,処分があつたことを知った日(処分に係る通知を受けた場合には,その受けた日)の翌日から起算して2か月以内にしなければなりません。処分内容を検討し,手元の資料を精査して,不服申立てをするのか否か,するとしてどのような構成で主張するのかなどを決するのに,2か月というのは短いという声がありました。
⑵ 改正点
そこで,今般の改正で,不服申立ては,「処分があつたことを知った日(処分に係る通知を受けた場合には,その受けた日)の翌日から起算して3か月を経過したときは,することができない」と定め,申立のできる期間を延長しました。また,あわせて,3か月を経過しても,正当な理由がある場合は,申立が可能である旨の条文が追加されました。これらの期間の延長および正当な理由がある場合の例外的な措置を認めることにより,納税者の利便性の向上が図られました。
3.二重前置主義の見直し
⑴ 現行
現在,国税に関する処分に不服がある場合,納税者は,原則として,「異議申立て」及び「審査請求」の2つの不服申立ての手続きを行わなければ,訴訟を提起することができません(二重前置主義)。このように,納税者は,不服申立てをするか訴訟を提起するかという選択ができないのみならず,訴訟提起をするには2度の不服申立てを経なければなりません。このような不服申立前置については,国民の裁判を受ける権利を不当に制限しているとの批判がありました。
⑵ 改正点
そこで,本改正では,大量の不服申立てがあり,直ちに訴訟提起をすることを認めると裁判所の負担が大きくなること等を勘案して,不服申立前置は残しつつ,二重前置は見直し,直接,審査請求ができるように制度の見直しをしました。
なお,これにより,現行の「異議申立て」は廃止されますが,処分庁が簡易な手続きで事実関係の再調査をすることにより処分の見直しを行う手続きである「再調査の請求」を設けることになりました。納税者は,審査請求前に,「再調査の請求」をするのか否かにつき選択することができることになります。
4.おわりに
以上の改正法の施行は公布の日(平成26年6月13日)から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日であり,施行日はこれから定められます。不服申立期間,手続きの選択は,不服申立てをするうえで重要な事項ですから,気をつけておきましょう。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 堀 招子
※ 本記事の内容は、2014年8月現在の法令等に基づいています。
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