連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第41回 組織再編成に係る行為計算否認-条文どおりに再編してもアウト?-

組織再編成に係る行為計算否認 -条文どおりに再編してもアウト?-

 

Q 今年に入って、ヤフーそしてIBMと大型の税務訴訟の判決が立続けにあったことが新聞紙面を賑わしていました。

当社ではいま組織再編を行うことを検討していますが、ヤフーの事件では同社が法律の規定に沿って再編行為を進めていたにも拘らず、国税局側の処分が東京地裁で認められたと聞きました。当社でも組織再編を実際に行う際には注意をしなくてはいけないと思っています。

判決のポイントも含めて、どのような点に留意すればよいか教えてください。

 

A ヤフーの事件で適用された規定を正確にいいますと、「組織再編成に係る行為又は計算の否認(法人税法132条の2)というものです。訴訟では、この規定の意味内容の解釈が判決の重要なポイントとなりましたので、実際に組織再編を行う際には、法律どおりの再編を行ったということの他、その再編行為が条文の趣旨・目的に適ったものであるかということも考慮する必要が出てくるかもしれません。

 

【解説】

  税金は特別の反対給付なく、一方的に個人や法人の財産を国家に納めさせる行為ですから、それを規定する税法はしっかりと条文に書かなくてはならないとされています。そして、実際に税法の条文をご覧いただくとお分かりになるように、個人や法人の活動を想定して細々と書かれています。

  その一方で、個人や法人の経済活動は多岐にわたりますから、その一つ一つを想定して全て税法の規定を書くというのも非現実的です。そのため、税法の条文の中にはキッチリとした文言になっていない箇所も見られるところです。上記の法人税法132条の2の規定もそういった種類のものですが、具体的な箇所は、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」というところです。「不当に減少させる」といいましても、どの程度であれば認められるのか、若しくはどこからが認められないのか、という線引きはこの文言からだけでは分かり辛いと思います。そして、この規定に関する裁判例はこれまでなかったのですが、従来からあった「同族会社等の行為又は計算の否認(法人税法132条)」という規定にも同じように「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」という文言があったため、ヤフー側は132条の2も「経済取引として不合理・不自然である場合」に限り適用されるべきであって、ヤフーの行為には経済的合理性があるから処分は違法である、という出張を展開して裁判を戦いました。

  そうしたところ、東京地裁は132条の2の解釈としては、132条の適用場面である経済取引として不合理・不自然である場合に加えて、「組織再編成に係る行為の一部が、組織再編成に係る個別規定の要件を形式的には充足し、当該行為を含む一連の組織再編成に係る税負担を減少させる効果を有するものの、当該効果を容認することが組織再編税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣旨・目的に反することが明らかであるものも含むと解することが相当である。」とし、これに照らせばヤフーの行為は「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」と判断をしたのです。

  つまり、「条文の創設の趣旨・目的」にまで踏みこんで解釈をする必要があるとしたわけです。

  この判決については、組織再編を行う際の重要な解釈指針として有用であるという肯定的な意見の一方で、「条文に書いてないことまで納税者が読み込まなくてはいけなくなる」「実務的に煩雑になり過ぎる」といった批判的な意見があることも事実です。

  本件はヤフー側が控訴したことで最終的な解釈が出るまでにはまだ時間が掛かるものと思われます。

  組織再編税制は納税者にとって税負担なく再編行為を機動的に行える制度ですから、ぜひ活用していただきたいと思います。しかし、その一方で、形式だけ整っていれば大丈夫というわけではないことはヤフーの事件でも明らかになりましたから、この税制の適用をするにあたっては、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

鳥飼総合法律事務所

税務部長 高田貴史

 

※ 本記事の内容は、2014年7月現在の法令等に基づいています。
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