連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第31回 3月中に完成しないと消費税は新税率が適用?
第31回 3月中に完成しない?
Q 当社は、自社ホームページを一新しようと考え、あるデザイン会社に発注し、今年平成26年の3月中の納品を依頼しました。 ところがつい先日、先方から、仕事が立て込み、3月中の完成は難しいとの連絡がありました。このような場合でも、消費税は新税率が適用になってしまうのでしょうか? |
A ご質問の場合には、引渡しが新税率の適用される4月以降となりますので、消費税の税率は8%となります。
[解説]
1.「資産の譲渡等」の時期
消費税は、国内において事業者が行った資産の譲渡等に対して課税されます。消費税の税率は、本年平成26年の4月1日より8%に上がりますので、4月1日以降に行われた資産の譲渡等については、新税率が適用となります。
ただし、税率の変更に伴いいくつか経過措置が設けられています。知られているものとしては、「駆け込み需要」が起きた昨年9月末までの新築住宅等の建築請負契約は記憶に新しいことと思いますが、その他にも本年3月中に半年分の通勤・通学定期券を購入しておくと有効期間中は旧税率、4月最初の検針があるまでの電気代は旧税率、等も経過措置の1つです。
2.役務の提供に係る資産の譲渡等の時期
役務の提供に係る資産の譲渡等の時期は、物の引渡しを要するものにあっては、その目的物の全部を完成して引渡した日、物の引渡しを要しないものにあっては、その約した役務の全部を完了した日とされています(基通9-1-5)。また、前払い等に係るものについては、資産の譲渡等の時期は、実際の入金日ではなく、現実に資産の譲渡等が行われた時とされています(基通9-1-27)。
したがって、ご質問のケースにおいては、貴社のホームページのデザインが完成するのが3月中には難しいということなので、資産の譲渡等の時期が4月以降となってしまうため、消費税は新税率である8%が適用されることとなります。
なお、当初の発注の際に、請負金額を消費税込みの金額として合意していた場合には、4月以降の支払であっても支払総額は増えず、一方で貴社において受けられる仕入税額控除の金額は大きくなることになります。
3.3月に行われた役務に対する対価は旧税率では?
もし、納品が4月2日だとすると、実質的な作業自体は3月までの間に行われたものがほとんどと考えられますが、引渡しが4月である以上、新税率が適用されることとされています。すなわち、役務の内容のうち、どこまでが3月中に行われたかを判断することは事実上困難ですので、役務の提供の完了時点である消費税率の8%を採用せざるをえません。
一方、同じく役務の提供であっても、少し取扱いが異なるものもあります。例えば、機械等のメンテナンス契約の場合には、契約期間が平成26年1月1日~12月31日の1年間とされていても、12月31日が4月以降であるからといって、全額に消費税率8%が適用になるわけではありません。月額料金が定められており、役務提供が月々完了するものであれば、3月分までのメンテナンス料金については旧税率が適用となります。
普段はとまどわずに処理している伝票であっても、消費税の移行期においては、どちらの税率が適用になるのか判別しにくい事例があるものと思います。消費税の新旧区分には十分ご留意ください。
鳥飼総合法律事務所 税理士 窪澤 朋子
※ 本記事の内容は、2014年1月現在の法令等に基づいています。
※ 「リスクコンシェルジュ」連載全記事にはこちらからアクセスできます。
関連するコラム
-
2023.08.25
山田 重則
固定資産税実務Q&A
Q&A 一覧 <総論> Q 固定資産税の過大徴収はどの程度起きているか? Q 固定資産税はどのように…
-
2023.07.19
橋本 浩史
非常に珍しい印紙税に関する税務判例の紹介と雑感~東京地方裁判所令和5年3月8日判決~
1 はじめに 税務に関する裁判例などのデータベースであるTAINS(タインズ)で、興味深い税務判例を…
-
2023.03.15
島村 謙
コストを抑えて行う事業承継型M&A
事業承継の切り札と期待されるM&Aが、廃業数の1%にとどまっているようです。原因として、業務…
-
2022.03.30
瀧谷 耕二
非公表裁決/債務超過の上場会社が上場廃止を回避するために行った第三者割当増資の引受人に対する有利発行課税が問題となった事例
東京証券取引所のマザーズ市場に上場していた会社が、債務超過による上場廃止を回避するために市場価格から…