連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第24回 示談や和解に潜む落とし穴?!債務免除に注意
示談や和解に潜む落とし穴?!債務免除に注意
Q 当A社では、取引先B社に対する売掛金が500万円あったのですが、B社の経営が悪化してしまい、450万円に減額するか、支払期日を延ばしてくれないかと相談されました。当社でも今期は資金が不足がちなので、450万円を支払ってもらうことにして、示談書のようなものを作ろうと思っています。税務上何か留意点があるのでしょうか。
A 場合によっては、50万円についての債権放棄が寄付金であるとの認定を受けるリスクがありますので、債権放棄に至った理由を、証拠を整えて説明できるようにしておきましょう。
上記のような場合において、A社ではどのような経理処理をするでしょうか。素直に考えると、売掛金が500万円計上されていますが、示談(和解)によって450万円しか回収できないのですから、回収できなかった50万円は貸倒損失として損金として扱う、と処理するように思えます。
しかし、税務署の側になって考えてみましょう。本来500万円相当の品を売って、500万円を受け取る権利があるA社が、この示談によって450万円しか受け取らなかったということは、彼らの目には、B社に対する50万円については債権放棄という形でB社にあげてしまったということで、寄付金であると映る可能性があるのです。(なお、B社の側も債務を免除してもらった、つまり50万円分の得をしたということで、債務免除益として益金であると認定される可能性があります。)
一方A社にとっては、このようなケースを全て寄付金と認定されてしまっては、おちおち示談に応じられないということになってしまいます。示談書もきちんと作っているのに、なぜ寄付金認定されてしまうのか、と思われるでしょう。
では、どのような場合であれば寄付金と認定されずに済むのでしょうか。 ご質問によればB社の経営が悪化しているということですから、例えば、B社の経営状況に関する資料を収集してみて、B社の債務超過の状態が相当期間継続していて、もはや売掛金を回収することができないことが分かったような場合には、それは貸倒れであり、寄付金とはなりません。なおこの場合には、B社に対して、免除する債務の額を書面で明らかにしておくことがポイントです。
つまり、回収できない売掛金を放棄した場合に寄付金と認定されずにすむためには、ただ示談や和解に応じたということではなくて、その売掛金を放棄するに至った理由が重要なのです。そして、その理由を証明できるような証拠も残しておかなければなりません。税務調査等でこの債権放棄について寄付金なのではないかと尋ねられた際に、そうではないということを説明し、証明できるだけの資料をそろえておけば、寄付金だと認定されるリスクが少なくなるのです。
具体的にどのような資料が必要になってくるのかは、債権放棄の原因によって変わってきます。(示談書のような書面はどのような場合でも活用できますが、重要なのは示談書に書かれている文言に係る事実と債権放棄に至った理由ですから、各ケースに応じたものにしておかなければ逆効果になるおそれがあります。)場合によっては裁判手続を利用したほうが良い場合もあるかもしれません。 示談書の作成は弁護士に、税務申告は税理士にそれぞれ頼むことが多いかもしれませんが、このように両者は密接に関連していますので、示談交渉の時点から、法務と税務の両方の観点からの検討が必須になることにご留意ください。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 小西 功朗
※ 本記事の内容は、2013年11月現在の法令等に基づいています。
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