連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第23回 減額した役員賞与の額を損金の額に算入できるか?

減額した役員賞与の額を損金の額に算入できるか?

 

 当社(3月決算)は,X年6月の定時株主総会でA取締役に対して支給する夏季(同年7月支給)及び冬季(同年12月支給)の賞与の額をそれぞれ200万円と定めました。当社は,同取締役に対して夏季賞与として200万円を支給しましたが,冬季賞与については,当社の業績悪化を理由に,A取締役への支給額を100万円に減額しました。この場合,当社は,A取締役に支給した賞与の総額300万円をX+1年3月期の損金の額に算入することができますか。

 

A 現在の国税庁の見解(通達・質疑応答事例)によると,冬季賞与の減額につき所轄税務署長に所定の変更届出をしなければ,御社は,A取締役に対する支給額の全額(300万円)について損金の額に算入することができません。

 

(説明)

1 事前確定届出給与

 平成18年度税制改正前は,役員賞与は損金の額に算入しないとされていましたが,同改正により,役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与のうち,所定の届出期間までに所轄税務署長にその定めの内容に関する届出をしているものは「事前確定届出給与」(従来の役員賞与に相当します。)として,その法人の損金の額に算入することができます(法法34①二)。しかし,届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合には,「事前確定届出給与」には該当しないことになり,原則として,その支給額の全額が損金に算入されないとされています(法基通9-2-14)。

 

2 税務署長に届け出た定めの内容を変更する場合

 事前確定届出給与の内容を届け出た法人が,業績の悪化により支給額を減額する場合には,変更(減額)後の内容を所定の期限までに所轄税務署長に届け出なければならず,かかる変更届出をすれば,変更(減額)後の支給額が損金の額に算入されます(法施令69③)。注意すべきなのは,本件のように,支給が複数回にわたる場合,そのうち1回でも(本件では冬季賞与)変更届出をしなかった場合,減額された回の支給額(本件では100万円)だけでなく,当該役員に対する支給額の全額(本件では300万円)が損金に算入されないことです(国税庁の通達・質疑応答事例など)。かかる取扱いについては,事前確定届出給与の制度の趣旨から異論もあり得るところですが,最近の裁判例(東京地裁平成24年10月9日判決・控訴中)も,上記のような通達等の取扱いを認める判断を下しています。

 

鳥飼総合法律事務所 弁護士 橋本浩史

※ 本記事の内容は、2013年8月現在の法令等に基づいています。

関連するコラム