連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第17回 「少人数私募債知らないの?あと3年ほどはメリットあるよ」と言われたのですが・・・
「少人数私募債知らないの?あと3年ほどはメリットあるよ」と言われたのですが・・・
Q 平成25年度税制改正で、少人数私募債の節税メリットが大きく減殺されると伺いました。もっとも話をよく聞いてみると、平成27年12月31日までに発行していれば、大丈夫とのこと。それではということで同日まではできるだけ役員や従業員からの会社への貸付は少人数私募債で行い、その恩恵におもいっきり浸りたいと思っているのですが、恥ずかしい話、そもそも少人数私募債って何ですか。また、税務上、何か注意すべきことがありますか。
A 小人数私募債とは、社長やその親族、社員、得意先などの少数の者(50名未満)に募集をかけて会社が発行する社債のことで、口数は50未満、転売は一括で行うといった制限がかかっているものをいいます。少人数私募債にはおっしゃるとおり節税メリットがあるといわれており、実際に多く利用されております。
確かに平成27年12月31日発行のものまでは現行の取扱いがなされることとなっておりますが、これに乗じて行き過ぎた発行を行った場合、否認されるリスクは当然にございます。適正利率での発行、会社の資金需要等に合わせた発行を心掛けましょう。
[解説]
1 少人数私募債の節税効果
少人数私募債には、有価証券届出書等の提出が不要、社債管理者の設置も不要、しかも発行が取締役会限りでできてしまうといった手軽さに加えて、次のような節税効果があるといわれています。すなわち、通常の貸付金の場合、受け取る利子は雑所得として総合課税(税率は所得に応じて4月22日現在5%-40%。なお、平成27年分からは5%-45%に。控除額あり。)の対象となりますが、少人数私募債の場合、どんなに高額所得者であっても一律15%(住民税をいれると20%)の源泉分離課税で済んでしまいます。この総合課税と源泉分離課税の税率の差をつかった節税メリットは、少人数私募債の利率を上げ、発行額を多額にすればするほど大きくなります。また、多額の利子を受け取る代わりに役員報酬等として受け取る額を減らしてしまえば、総合課税扱いの所得が減りますからさらに効果が増します。加えて、会社としても、多額になった社債利子をそのまま損金として落とせるといったメリットが享受できるのです。
2 平成25年度税制改正
このような節税が許されていることが問題視され、平成25年度税制改正においては、株式と社債の税務上の取扱いをできるだけ同じにしようという金融所得課税の一体化の改正に合わせて、同族会社が発行した社債の利子でその同族会社の役員等が支払をうけるもの、すなわち少人数私募債が利用されているほとんどのケースにおける受取利子が総合課税の対象とされるようになりました。これにより、少人数私募債の節税メリットは大きく減殺されたといえるでしょう。ただし、かかる改正は、平成28年1月1日以後発行のものに限って適用されることとされましたので(もっとも今後の改正の動向にも注意が必要です。)、同日前に発行したものについては同日以後もこれまでと同じような節税メリットが享受できる状況に今のところございます。少人数私募債の償還期限は取締役会限りで自由に定めることができますので、これを長く設定すれば当分の間、かかるメリットを享受し続けることができるというわけです。
3 少人数私募債発行の税務リスク
もっとも、特段の資金需要もない中、高額の少人数私募債を高利率で発行すると、適正利率を超える部分の利息につき、受取利子ではなく役員報酬等と課税庁に認定され総合課税の対象とされるリスクが発生してまいります。同時に役員報酬とされると、これを支払う会社側では、超過利息支払分につき損金不算入とされてしまうリスクが生じます。このようなリスクは、少人数私募債から受け取る利息額に見合った分だけ役員報酬等が減額されていると、役員報酬等を社債利息に置きかえただけですね、ということで、さらに高まってまいります。
4 税務リスクへの対応策
ですから少人数私募債を発行する場合には、まずは適正な利率の設定を心掛けましょう。適正な利率として、低迷している銀行の預金金利に合わせる必要まではありませんが、これからあまりに乖離しないように、例えば上場会社の社債金利を参考にすると良いでしょう。また既存の貸付金を私募債に切り替える分には実態が役員報酬等であるとみなされる可能性は低いといえますが、全くの新規の会社への資金注入の場合には、少人数私募債発行のタイミングとして、たとえば新規事業の立ち上げに合わせて行うなど、実際に少人数私募債発行の資金需要があったことを示せる状態にしておくとよいでしょう。もっとも、以上は一般論に過ぎません。個別の発行においては当然、個別の事情を精査していく必要がございます。少人数私募債の取扱いについては今後の改正の動向にも注視が必要です。多少なりとも不安のある場合には、是非とも専門家にご相談ください。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 西中間 浩
※ 本記事の内容は、2013年5月現在の法令等に基づいています。
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