連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第7回 税務問題が発生した場合において,国税当局の指導に従い修正申告に応ずるべきか,不服申立て・税務訴訟を行い争うべきかの「意思決定」に関する役員の責任(経営判断)
税務問題が発生した場合において,国税当局の指導に従い修正申告に応ずるべきか,不服申立て・税務訴訟を行い争うべきかの「意思決定」に関する役員の責任(経営判断)
Q 当社は,法人税の税務調査で,比較的大きな額の申告漏れを国税当局から指摘をされました。顧問の税理士の先生に意見を求めたところ,国税当局の見解には明確な根拠はなく,その根拠は,税法の解釈いかんにかかわるものとのこと。判例もない領域であるため,むげに修正申告に応ずるべきではなく,不服申立てを行う方法もあるというアドバイスをもらいました。そこで,顧問の法律事務所にも確認を求めたところ,「税務については専門ではないため明確なことはいえないが,なかなか国税と争う訴訟は勝率も厳しいため,費用と時間をかけてまで争うよりも,修正申告に応じたほうがぶなんではないか」という意見をもらいました。
当社は上場企業ですから,このようなむずかしい税務問題について,争うにしても修正に応ずるにしても,役員が意思決定を行う必要があります。今回当社が指摘を受けた問題については,報道によると似たような取引について追徴課税を受けた某有名企業は,すでに不服申立ての手続を採ったようです。こうしたなかで,当社は争わない(修正申告に応じる)という判断をしても問題はないでしょうか。
A 貴社が国税当局から指摘を受けた事項について,当局の指摘にしたがい修正申告をするか,それとも納得できないとして不服申立て(異議申立て・審査請求)を行うかは,貴社の「経営判断」に属する事項です。会社法上,「経営判断の原則」というルールが,判例理論として確立されているからです。
したがって,結論そのもので役員責任の問題が生じることは原則としてありません。
ただし,「経営判断の原則」といっても,判断をする前提事実に誤認があったり,事実や問題点に対する認識・理解が誤っていたり,不正確であった場合などには,役員が経営責任の追及を受けることもあり得ます。
そのため,その税務問題について,①どのような事実があるのか,②その事実についてどのような問題点があるのか,③その問題点についてはどのような考え方があり,どのように考えられているのか(考えるべきなのか),④不服申立てや税務訴訟をした場合,その処分が取り消される可能性はどれくらいあるのか(勝訴可能性はあるのか)といったことを複数の専門家に分析してもらうなど,多様な意見を収集したうえで,貴社としての「経営判断」を行うことが重要になります。
この場合,上記①ないし④については,じっさいにそうした分析を行ったという事実が重要になりますから,社内の報告書や稟議書,取締役会議事録といった内部文書としてきちんと残しておくことが重要になります。また,専門的な税務問題については,第三者から意見書(オピニオン)をもらうなどし,そうした資料についても上記検討過程における参考資料(添付資料)として残しておくことも重要です。特に今回のケースでは,税務の専門家である顧問税理士は「争える可能性があり」との意見のようですから,税務に詳しくない顧問弁護士の意見が争うことに消極的だとしても,さらに税務に詳しい法律事務所にも意見を求めてみるとなど,複数の意見を集約することも重要です。
こうした分析を明確に行ったうえでの判断であれば,原則にもどり,争うか争わないかは,「経営判断の原則」が適用され基本的に責任を問われることはありません。今回のケースでは,同種の取引について追徴課税をされた他社は,すでに争っているという報道があるようですが,裁判で勝訴判決(処分の取消し)が確定したわけではありません。したがって,そうした状況があるなかで,貴社はどうするかということを綿密に検討したうえでの判断をしているのであれば,他社が争っているのに貴社は争わなかったという理由だけで,役員責任の追及が認められることはないはずです。
以上のとおり,大事なことは,意思決定のプロセスであり,そのプロセスにおける検討だといえます。
以上
鳥飼総合法律事務所 弁護士 木山泰嗣
※ 本記事の内容は、2012年11月現在の法令等に基づいています。
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