リスクコンシェルジュ~税務リスク 第2回 税務署職員の指導

税務に関するQ&A
第2回 税務署職員の指導

Q 税務署職員の指導

 A税務署による過去の税務調査において、同署職員より減価償却費の計算方法について指導を受け、修正申告を求められたため、当社は、同署職員の指導に従って修正申告を行い、その後も毎年継続して当該指導に従った減価償却費の計算方法によって申告を行ってきました。

ところが、数年ぶりの今回のA税務署の税務調査において、前回の同署職員の指導による減価償却費の計算方法は誤りであるとして、同署から修正申告を求められており、仮に修正申告に応じない場合には更正処分を行うと言われています。

 当社は、更正処分されたとしても、今回の指摘事項の原因は当社にあるのではなく、A税務署の当時の職員にあると思うので、その点をしっかりと主張して争えば、当社は勝てるのではないかと思っておりますが、いかがでしょうか。

 

A 御社がA税務署の過去の税務調査における当時の職員の指導どおりに処理を行っていたとしても、その処理が税法上誤ったものであるのであれば、その誤りの原因が当時のA税務署職員にあると主張して争ったとしても、勝てる可能性は極めて低いものと思われます。

 

[解説]

1.更正処分の違法性の判断は?

更正処分の違法性については、もっぱら当該処分が「法律に適合しているか否か」によって判断されますので、処分の対象となった税務処理の間違いの原因が納税者にあるか否かは基本的には関係ありません。

2.税務署職員の指導を信じた納税者は救われないのか?

法の一般原理として「信義誠実の原則の法理」というものがあります。「信義誠実の原則」とは、権利の行使や義務の履行は、相手の信頼を裏切らないように誠実に行わなければならないという原則です(以下「信義則」といいます)。課税処分についてこの信義則の法理が適用されれば納税者は救われるのですが、ご相談のケースについて信義則の法理が適用されることは難しいと思われます。

信義則の法理が課税処分について適用されるためには、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示した事実があることが不可欠であるとされています。そこで調査担当職員の申告の指導が、この信頼の対象となる公的見解の表示に当たるかどうかが問題となるところですが、調査担当職員の申告の指導は、この信頼の対象となる公的見解の表示に当たらないと解されています。したがって、ご相談のケースのような調査担当職員の申告の指導について、信義則違反を理由に争っても勝てる可能性は極めて低いものと思われます。

なお、更正処分とは別に賦課決定処分により課される加算税については、「正当な理由がある場合」には課されないとされており、税務署職員の誤った指導(誤指導)の事実があったことなどを理由として、加算税が取消された事例はいくつかあります。したがって、税務署職員の誤指導の事実があったことの立証ができれば、たとえ本税に係る更正処分は取消されなくとも、加算税に係る賦課決定処分は取消される可能性はあります。

3.税務署職員の指導があったときにどのようにすれば良いか?

税務署職員であっても誤った指導を行うことがあります。そのため、税務署職員の指導を鵜呑みにするのではなく、専門家を交えてしっかりと検討することが肝要です。

 

鳥飼総合法律事務所 税理士  佐野 幸雄

※ 本記事の内容は、2012年9月現在の法令等に基づいています。

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