「フリーランス新法」の成立。企業が取るべき対応は?

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加藤 佑子

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会社・法人法務相談一般

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今年4月28日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」が成立し、5月12日に公布されました。フリーランスとして活躍する人が増える中、フリーランスが遭遇する法的トラブルが社会問題化しています。そのトラブルを防止・解決するため、フリーランスに係る取引に関し、発注者側に一定の義務等を課すものです。法の施行は公布後1年6か月を超えない時期とされていますので、本稿では、施行までに企業が押さえておくべき法律の概要や対応のポイントについてご紹介いたします。

1 フリーランス新法成立の背景

近時、社会情勢や意識の変化・テクノロジーの発達を背景に、テレワークという勤務形態が一般的となり、また、副業/複業を持つことが特別ではなくなるなど、働き方の多様化が進んでいます。

そのような中、特定の企業に雇用されず自営業主として働くフリーランスも増えていると言われています。コロナ禍が本格化する前の2020年2月~3月にかけて内閣官房が行った試算では、フリーランスの人数は約462万人に上るとされ、コロナ禍を経て、現在はさらに増加しているものと推測されます。

働き方としてフリーランスを選ぶ人が増えることに伴い、フリーランスと発注者との間で生じるトラブルも広く知られるようになりました。フリーランス協会の調査(※1)によれば、発注者である企業と取引上のトラブルを経験したことのあるフリーランスの割合は45.6%、具体的には報酬の支払遅延や減額、契約の一方的な変更などのトラブルが多く発生しています。

これまでに、「自営型テレワークの適正な実施のためのガイドライン」(厚生労働省)や「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省)が策定されています。しかし、いずれも、フリーランスが遭遇するトラブルを防止・解決する観点からは、実効性が乏しいものでした。

そこで、フリーランスと発注者の取引を適正化するための法律として「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(以下、「フリーランス新法」と言います。)が今年4月28日に成立し、5月12日に公布されました。(公布後1年6か月を超えない時期に施行されることになっています。)

2 法律の概要

(1)趣旨

フリーランス新法は、フリーランスに係る取引の適正化とフリーランスの就業環境の整備を図るため、発注者が遵守すべき事項等を定めています。

参考:フリーランス新法第1条

「この法律は、我が国における働き方の多様化の進展に鑑み、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するため、特定受託事業者に業務委託をする事業者について、特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示を義務付ける等の措置を講ずることにより、特定受託事業者に係る取引の適正化及び特定受託業務従事者の就業環境の整備を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」(下線は筆者による。)

(2)対象となる当事者及び取引

フリーランス新法は、適用対象となる受注側のフリーランスを「特定受託事業者」と定めています。具体的には、業務委託を受ける事業者(個人・法人代表者)であって従業員を使用しないものが「特定受託事業者」に当たります(第2条第1項及び同2項)。つまり、同法のフリーランスには、個人事業主だけでなく一人法人も含まれることになります。

フリーランス新法が定める義務等を遵守すべき者は、「特定受託事業者」へ業務を委託する事業者(発注者)です。なお、同法は、この事業者について、「業務委託事業者」(第2条第5項)と定め、遵守すべき事項が少し異なることから、「業務委託事業者」のうち従業員を使用する等一定の要件に該当するものを「特定業務委託事業者」と分けて定めています(第2条第6項)。

以上のとおり、フリーランス新法は、事業者間の取引を対象としており、その取引とは、「特定受託事業者」(フリーランス)へ業務を委託する形式の取引です。

(3)フリーランスへ業務を委託する事業者が遵守すべき事項

ア 特定受託事業者に係る取引の適正化

①業務委託の条件明示(第3条)

「特定受託事業者」へ業務委託する場合、給付の内容、報酬の額、支払期日等を、書面や電磁的方法(メールやチャットメッセージも可)で明示しなければなりません。

業務委託の条件を巡ってはフリーランス間でもトラブルが生じやすいことから、この①「業務委託の条件明示」に関する義務については、発注側のフリーランスも「業務委託事業者」として負うこととされています。

②報酬支払期日(第4条)

業務を委託した事業者は、「特定受託事業者」の給付を受領した日から60日以内の報酬支払期日を設定して、支払わなければなりません。なお、再委託の場合には、発注元から支払を受ける期日から30日以内とされています。

③禁止行為等(第5条)

特定受託事業者との業務委託(政令で定める一定期間以上の継続的な業務委託)について、(ⅰ)~(ⅴ)の行為をしてはならず、(ⅵ)(ⅶ)の行為によって特定受託事業者の利益を不当に害してはならないこととされています。

(ⅰ)特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること

(ⅱ)特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること

(ⅲ)特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと

(ⅳ)通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること

(ⅴ)正当な理由なく自己の指定する物の購入・ 役務の利用を強制すること

(ⅵ)自己のために金銭、 役務その他の経済上の利益を提供させること

(ⅶ)特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること

イ 特定受託業務従事者の就業環境の整備

「特定委託業務事業者」には、特定受託事業者として業務に従事するフリーランスの就業環境整備に関わる次のような義務も課されています。

①広告等により募集情報を提供するときは、虚偽の表示等をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければならない。(第12条)

②政令で定める一定期間以上の業務委託について、フリーランスが育児介護等と両立業務を行えるよう、申出に応じて必要な配慮をしなければならない。(第13条)

③ハラスメント行為に係る相談対応等必要な体制整備等の措置を講じなければならない。(第14条)

④政令で定める一定期間以上の業務委託を中途解除する場合等には、原則として、中途解除日等の30日前までに予告しなければならない。(第16条)

(4)違反した場合等の対応・罰則

行政は、フリーランスに業務を委託する特定業務委託事業者等に対し、違反行為について助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令をすることができます。そして、命令違反及び検査拒否等する特定業務委託事業者等には、50万円以下の罰金が科され得ます。(法人両罰規定もあり。)

3 企業の対応

取引条件を口頭でなく書面・メールで明確化するなど、フリーランス新法が定める遵守事項は既に対応済みであるという企業も少なくないでしょう。こうした企業にとって、新法成立の影響はそれほど大きくないと思われます。

ただ、フリーランス新法が施行されれば、これまで資本金基準との関係で下請法が適用されなかった企業も、フリーランス新法上のフリーランス(特定受託事業者)へ業務を委託する際には、条件明示の義務などを負うこととなります。したがって、もし、外注先にフリーランスが含まれている場合で、これまで業務委託する際に形式などをあまり気にしてなかったという企業においては、まず発注方法から点検されてみてはいかがでしょうか。

4 まとめ

フリーランス新法は、同法上のフリーランス(特定受託事業者)を労働者として保護するものではありません。個人や一人法人で業務を受託するフリーランスが、相対的に発注者より弱い立場に置かれることが多いため、発注者との取引を適正化するために定められたものです。

冒頭で述べたように、フリーランスの増加は、働き方が柔軟で多様になってきていることの表れの一つであり、働く形態の選択肢が増えていることは望ましいことと言えます。また、企業にとっても、例えば自社にはいない高い専門性を有する外部人材へ業務委託できることは、事業上有益でしょう。フリーランス新法の成立・施行によって、フリーランスに係る取引が適正に行われ、多様な人材活躍・人材活用がより良い方向に進むことが期待されます。

以上

引用:

※1 一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会「フリーランス白書2020」

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