請負に関する契約書(請負と委任の区別②民法改正の影響)

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不動産取引に必須の印紙税の知識(8)
―請負に関する契約書(請負と委任の区別②民法改正の影響)―

1 請負とは、委任とは(前回の復習)
 今回も前回に引き続き、請負に関する契約書に関して、請負と委任の区別を中心に解説します。では、早速前回の復習から始めていきます。

 請負とは、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約することにより成立する契約をいいます。他方、委任とは、当事者の一方が法律行為をすること(事務を処理すること)を相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって成立する契約をいいます。

 請負も委任も、ともに役務を提供して業務を行い、委託者の指揮命令を受けないという点で共通していますが、その違いは、請負が仕事の完成を契約の目的としているのに対し、委任は事務を処理すること自体が契約の目的とされている点にあります。

 ここまでは前回の復習になります。それでは、今回も不動産に関連する事例を用いて請負と委任について解説をしていきます。

2 請負と委任の区別が必要となる事例
 不動産鑑定士が行う価格等調査業務に関し、不動産鑑定士が所属する不動産鑑定業者と委託者との間で交わす「価格等調査業務依頼書兼承諾書」は、請負に関する契約書に該当するでしょうか。

図1  不動産鑑定業者が行う価格等調査業務の「依頼書兼承諾書」

価格等調査業務依頼書兼承諾書

(受託者)  乙  様

 価格等調査業務標準委託約款に基づき、下記のとおり価格等調査業務を依頼します。

平成30年3月20日
                  (委託者)  甲  印 

1. 業務の種類      □鑑定評価基準に則った鑑定評価
              □鑑定評価基準に則らない価格等調査

2. 対象不動産の概要   ・・・

3. 業務の目的と範囲等の確定 ・・・

4. 再委託  ・・・

5. 業務納期 ・・・

6. 委託報酬 ・・・

7. 支払方法 ・・・

8. 発行部数 ・・・

9. 特記事項 ・・・

^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

   上記のとおり、承諾致します。

   なお、業務開始時において、提供された資料、現地調査等の結果により、業務の種類    の変更、業務納期の延長又は報酬の変更の可能性があることを予め了承願います。

平成32年4月1日
(受託者)  乙  印 

*価格等調査業務標準委託約款 抜粋

第10条(業務の完了)

本件業務は、乙が甲に対して、鑑定評価書等の成果報告書を交付することにより完了する。

 まず、印紙税法上の契約書とは、その名称のいかんを問わず、契約の成立等の事実を証明する目的で作成する文書をいいます。ここで、図1の文書は「価格等調査業務依頼書兼承諾書」という表題ではあるものの、その記載内容は価格等調査業務標準委託契約の成立の事実を証明するものであり、印紙税法上の契約書にあたります。

 次に、この文書が請負に関する契約書に該当するか否かですが、結論としては、この文書は委任契約書に該当し、請負に関する文書(第2号文書)には該当しません。

 一般に、委託者が受託者の専門的知識、経験、技術等を信頼して業務を委託する場合、その受託者自身が業務を遂行することが契約の目的となっており、委任契約に該当すると考えられています。この点、不動産鑑定士は専門性が高く、その不動産鑑定士が行なう価格等調査業務に関しても、委託者は、不動産鑑定士の有する知識、経験、技術等を信頼して、適正な手法により価格等の調査を行なうことを期待して業務を委託しているといえます。したがって、事例の価格等調査業務は委任契約に該当し、この文書は請負に関する契約書(第2号文書)には該当しません。

 ところで、約款の10条には、鑑定評価書等の成果報告書を交付することにより業務が完了するとされていますので、成果報告書の完成交付を仕事の完成と捉えれば請負にあたるとも考えられます。

 しかし、約款の10条では、業務の完了時を成果報告書の提出の時と定めただけであり、成果報告書の交付と報酬の支払いが対価関係にあることを規定したものではありません。また、鑑定評価書の交付はあくまでも鑑定評価業務の一環としてなされるものですので、成果報告書を交付することのみをもって請負と判断するのは早計です。成果物の引渡しを請負の判断基準とする考え方もありますが、専門家に対し調査業務を委託し、その報告を書面で受けるということは単に委任契約の報告義務に基づくものにすぎない場合があり、成果物の引渡しがあるからといって必ずしも請負に該当するとは言えません。したがって、「報告書の提出」=「成果物の引渡」=「請負」と判断するのは早計といえるでしょう。

3 民法改正の影響
 平成32年施行の民法改正により、請負と委任に関して以下の通り改正されることになります。

[請負に関する改正]

(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)

 第634条

 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注 文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。

 (1)注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。

 (2)請負が仕事の完成前に解除されたとき。

 請負は、仕事の完成に対して報酬が支払われる契約であるため、仕事を完成しなければ報酬を請求することができないのが原則です。本条の改正では、第1号、第2号に掲げる場合については、請負人が既にした仕事のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなし、その利益の割合に応じて報酬を請求することができる旨を規定しました。これは従来の判例法理を踏まえて新設された規定ですが、この改正により、請負人は、本条に該当する場合は、契約の目的となっている仕事の全部を完成しなくても、注文者が受ける利益の割合に応じて、報酬請求をすることができることが確認されました。

 請負は仕事の完成が目的であるにもかかわらず、仕事の全部を完成しなくても、一定の条件を満たせば割合的な報酬請求が可能となれば、役務提供の割合に応じた割合的報酬請求が可能な委任との区別がより難しくなるといえるでしょう。

[委任に関する改正]

(成果等に対する報酬)

第648条の2

1 委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない。

2 第634条〔注文者が受ける利益の割合に応じた報酬〕の規定は、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合について準用する。

 委任契約における報酬の支払方法としては、委任事務の処理自体に対して報酬が支払われるのが原則ですが、事務処理によってもたらされる成果に対して報酬を支払う契約形態も存在します。そこで、本条第1項において、これらの成果報酬型の委任については成果が引渡しを要するときは、報酬の支払いと成果の引渡しが同時である旨が規定されました。従来から「成果物があれば請負にあたる」、「引渡しを要するものは請負にあたる」といった判断基準が存在し、実務においても、成果物の引渡しがあることを理由に請負であると判断されたと解される事案も多く見受けられます。しかし、この民法改正によって、成果(成果物)の引渡しが存在するのは請負に限られないことが確認されました。したがって、成果物の引渡しが存在するからといって、請負であるとは即断できないといえます。

 また、本条第2項では、成果報酬型の委任について、先に解説した請負の第634条の規定を準用し、割合的な報酬を請求することができることが明記されました。これにより、成果報酬型の委任の報酬に関しては、請負と同様の扱いがされることとなりました。したがって、報酬が段階的に支払われる場合には、請負にも委任にもあたりうるため、報酬の支払方法からは請負と委任とを区別できないことになります。

 以上の改正の内容からすれば、請負と委任の区別はより難しくなったといえます。請負と委任の区別は小手先の対応ではなく、やはり本質的に契約の目的が仕事の完成にあるか否かを読み解き判断する必要があるといえます。

 次回は請負と売買の区別が必要となる事例を取り上げ、さらに請負に関する理解を深めていただく予定です。ぜひ、ご期待ください。

以上

鳥飼総合法律事務所 弁護士 沼野友香

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