【印紙税】変更契約書の取扱い(契約金額の増額減額)

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不動産取引に必須の印紙税の知識(4)
―変更契約書の取扱い―

1 変更契約書にも印紙を貼る必要があるのか
  今回は、すでに成立している契約の内容を変更する際に作成する変更契約書の取扱いについて解説します。一言で契約の内容の変更と言っても、契約の目的物の変更、契約金額の減額増額など様々なケースがあります。

 では、これらの変更契約書に印紙を貼る必要があるのでしょうか。この問いに対しては、「元の契約書に印紙を貼っていれば、変更契約書には貼る必要はない」、「変更契約書も契約書なのだから、元の契約書に印紙を貼っていても必ずまた貼らなければいけない」などの答えが返ってきそうです。しかし、実は、いずれの答えも正解ではありません。変更契約書に印紙を貼るか否かは、その文書で何を変更するかによって結論が異なります。

 そこで、以下では印紙を貼る必要がある文書はどのようなものかについて考えていきます。

2 変更契約書とは
 印紙税法上、変更契約書とは、どのような文書を指すのでしょうか。そもそも契約の内容の変更とは、既に存在している契約の同一性を失わせないで、その内容を変更することをいいます。したがって、この契約の内容の変更を証明する目的で作成された文書が変更契約書ということになります。

 そして、印紙税法上の契約書とは、その名称のいかんを問わず、契約の成立、更改、契約の内容の変更または補充の事実を証明する目的で作成する文書とされていますから、変更契約書は印紙税法上の契約書にあたります。名称のいかんを問わないので、たとえ「覚書」や「念書」という名称の文書でも、契約の内容の変更を証明する目的で作成する文書であれば印紙税法上の契約書にあたることになります。

 とすると、「変更契約書も契約書なのだから、元の契約書に印紙を貼っていても必ずまた貼らなければいけない」という答えは正解のように思えます。

 では、変更契約書のすべてに印紙を貼らなければいけないのでしょうか。答えはNoです。変更契約書のうち印紙を貼らなくてはいけない文書は、印紙税法で定められている重要な事項を変更するものに限られているのです。

 例えば、請負に関する契約書(第2号文書)の重要な事項は下記のとおりです。したがって、建築工事請負契約に関して、契約金額の支払期日を変更する文書であれば、これは重要な事項を変更するものにあたりますから、印紙の貼付が必要になります。しかし、合意管轄を変更する文書であれば、これは重要な事項を変更するものにはあたりませんから、印紙の貼付は必要ありません。

<第2号文書の重要な事項>
(1)請負の内容
(2)請負の期日又は期限
(3)契約金額
(4)取扱数量
(5)単価
(6)契約金額の支払方法又は支払期日
(7)割戻金等の計算方法又は支払方法
(8)契約期間
(9)契約に付される停止条件又は解除条件
(10)債務不履行の場合の損害賠償の方法

3 契約金額の変更をする場合(増額)
  では、次は事例で考えてみましょう。甲乙は、以下のような建築工事請負契約を締結しましたが、後にその契約金額を変更する必要が生じました。

図1

No.171001

建築工事請負契約書        

 注文者甲と請負者乙は次のとおり建築工事請負契約を締結する。

第1条 甲は乙に対し下記の建築工事を注文し、乙はこれを請け負い、完成させることを約した。

第2条 請負代金は金1億円とし、…
(省略)
 本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、各自1通を所持する。

平成29年10月1日  

                          甲 ㊞  
                          乙 ㊞   

図2のように請負金額を増額する変更覚書を作成した場合、印紙を貼る必要があるでしょうか。

図2

変更覚書

 注文者甲と請負者乙は、平成29年10月1日付建築工事請負契約の請負代金を次のとおり変更する。

1. 既定金額       1億円
2. 変更後金額      1億2,000万円
3. 既定金額との差額増減 2,000万円

平成29年12月1日  
                          甲 ㊞  
                          乙 ㊞   

 まず、この変更覚書は、「覚書」という名称ではありますが、その内容は「契約金額」という重要な事項の変更であり、印紙税法上の契約書にあたります。

 次に、いくらの印紙を貼るかについてですが、これは、記載金額により決まります。変更契約書の記載金額については、変更前の金額の記載のある文書が作成されていることが明らかで、かつ、変更契約書に変更金額が記載されている場合には、契約金額が増加するときはその増加金額が記載金額となり、契約金額が減少するときには記載金額がないものとなります。

 図2の事例では、変更前契約書の契約年月日が記載されていることから、変更前の金額の記載のある文書が作成されていることが明らかであり、かつ、変更覚書に変更金額の記載があるので、その記載金額は増加金額である2,000万円となります。よって、印紙税額は、2万円となります(軽減税率1万円)。

 仮に、変更前の契約金額の記載のある文書が作成されていることが明らかでない場合は、変更後の金額である1億2,000万円が記載金額となり、印紙税額は10万円(軽減税率6万円)になりますので、大きな差異が生じます。つまり、図2の事例では、「平成29年10月1日付建築工事請負契約の」の記載があれば印紙税額は2万円(軽減税率1万円)で済みますが、その記載がなければ印紙税額は10万円(軽減税率6万円)になるということです。

 また、たとえ変更前の契約金額の記載のある文書が作成されていることが明らかな場合であっても、変更後の契約金額のみが記載されていて、いくら増減したか明らかでない場合には、変更後の契約金額に応じた印紙を貼る必要がありますので、この点にも注意が必要です。

4 契約金額の変更をする場合(減額)
 次に、契約金額を減額する場合について考えます。図3のように請負金額を減額する変更覚書を作成した場合、その印紙税額はいくらになるでしょうか。

図3

変更覚書

 注文者甲と請負者乙は、No.171001建築工事請負契約の請負代金を次のとおり変更する。

1. 既定金額       1億円
2. 変更後金額      8,000万円
3. 既定金額との差額増減 2,000万円

平成29年12月1日  
                          甲 ㊞  
                          乙 ㊞   

 まず、この変更覚書は、図2の増額の場合と同様、印紙税法上の契約書にあたります。

 そして、図3の事例では、変更前契約書の文書番号が記載されていることから、変更前の金額の記載のある文書が作成されていることが明らかであり、かつ、変更覚書に変更金額の記載があるので、その記載金額はないものとなります。よって、印紙税額は、200円です。

 仮に、変更前の契約金額の記載のある文書が作成されていることが明らかでない場合、すなわち、図3の事例では、「No.171001建築工事請負契約の」の記載がない場合には、変更後の金額である8,000万円が記載金額となり、印紙税額は、6万円(軽減税率3万円)になりますので、やはり大きな差異が生じます。

 また、変更前の契約金額の記載のある文書が作成されていることが明らかな場合であっても、変更後の契約金額のみが記載されている場合に変更後の金額に応じた印紙を貼る必要がある点は減額の場合も同様です。

 このように、その文書の名称いかんにかかわらず、契約の内容の変更を証明する文書にも印紙税が課される点には注意が必要です。さらに、その記載内容により、印紙税額も大きく異なりますので、文書の書き方ひとつで節税することができます。次回以降もこの連載では、文書の書き方によって印紙代が変わってくる事例を取り上げる予定です。ぜひ、ご期待ください。

以上

鳥飼総合法律事務所 弁護士 沼野友香

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