ストックオプション税務訴訟 よくあるご質問にお答えして

Q1.  ストックオプションによる収入が給与所得であるとする法律があるのですか?

A1.  今回問題となっている「日本法人に勤務する役員や従業員が、外国親会社からもらったストックオプションを行使したことによる収入」について明確に給与所得と規定する法令は一切ありません。国税当局は当初、通達にその根拠があるといっていたのですが、訴訟においてこれは間違いであることを認めました。しかし、所得税法第28条《給与所得》※の解釈で、ストックオプションによる収入は給与所得であると考えられるとしています。
 今、まさにこの点について争っているのです。
尚、日本の会社からもらったストックオプションについては少しずつですが法律が整備されてきています。
 ※  所得税法28条1項「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(略)に係る所得をいう。」

Q2.  私は、勤めている会社(A社)の親会社(B社)のさらに親会社である(C社)からストックオプションを付与され行使しました。この場合は現在の課税庁の見解に従ったとしても「一時所得」になりませんか。

A2.  国側は、子会社の役員・従業員が親会社から付与されたストックオプションを行使して得た権利行使益について、「給与所得」に該当すると主張しています。しかし、税法上「親会社」「子会社」という概念はなく、国側の言う「親会社」「子会社」が商法上の親子会社をいうのか、あるいはその他の意味なのか明らかでありません。そのため、現在訴訟において釈明を求めているところです。
 国側の解釈によっては、御質問の場合も「給与所得」に該当すると判断される可能性があります。
Q3.  税務署から調査をしたいと連絡がきました。対応しなくてはいけませんか?

A3.  税務署の調査※1には原則対応する義務があります※2。これは、所得を確定するために必要なことだからです。従いまして、どこからいくらの収入があったかが分かる書類等を用意して下さい。
 尚、税務署は必要以上の書類を欲しがる傾向があります。しかし、所得が確実に分かれば良いのです。必要以上に資料を出すことはありません。
 ※1  所得税法234条等の各個別税法の規定により、租税職員には、課税要件事実について関係者に質問し、関係の物件を検査する権限(いわゆる「質問検査権」)が認められています。
 ※2  税務調査には直接の強制力はありませんが、必要な質問に答えなかったり、検査を妨害したような場合の罰則規定があります(所得税法242条8号等)。

Q4.  税務署は、いつまで税金を増やす処分(増額更正処分)をすることが出来るのですか?

A4.  原則的には、法定申告期限から3年間することが出来ます(国税通則法70条1項)。従いまして、所得税の場合は、翌年の3月15日までに申告する必要がありますので、3年後の3月15日まですることが出来ます(例えば、平成12年分の所得税申告につきましては、平成13年3月15日の申告期限から3年である、平成16年3月15日まで更正処分をすることが出来ます)。尚、所得を隠していた場合(脱税)は7年間することが出来ることとなっています(同条5項)。
 ちなみに、納税者が税金を余分に払い過ぎていた場合は税金を減らす処分(減額更正処分)をしてもらうことになりますが、これは5年間出来ることになっています(同条2項)。
Q5.  平成10年にストックオプションを行使し、税務署の指導に従い「一時所得」として期限内に申告しましたが、未だ更正処分を受けていません。今後更正処分を受ける可能性はあるのでしょうか。

A5.  現在までに一時所得として申告した方がみなさん更正処分を受けているわけではなく、実際にはばらつきがあります。同じ税務署であっても更正処分を受けている人とそうでない人がいたりします。ただ、法定申告期限の翌日から3年間は更正処分ができますので(期限内申告をした場合)、平成10年分については平成14年3月15日までは処分を受ける可能性があります。ですので、現在の時点で更正通知を受取っていないからと言って安心することはできません。

Q6.  税務署から更正通知が送られてきたのですが、何故税金を増やされたのか理由が書いてありませんが?

A6.  税法上、税金を増やす場合の更正通知に何故税金を増やすのかの理由を書かなくてはならない場合はかなり限定されています。そして今回のストックオプションのケースでは理由を記載しなくてはならないという決まりになっていないのです※。従いまして、更正の理由を知るためには、不服申立(Q7参照)を行って税務署の回答を待つことになります。
 ※  国税通則法74条の2第1項、行政手続法14条1項参照。なお、青色申告の場合には更正通知に理由を付記しなければならないことになっています(国税通則法155条)。
Q7.  増額更正処分をされました。納得できないので訴訟にしたいのですが?

A7.  訴訟にするためには、原則として異議申立(税務署長等に対して)と審査請求(国税不服審判所長に対して)をする必要があります。これを「不服申立前置主義」といいます。従いまして、いきなり裁判所に訴えて出ることは原則できません。手続きの流れは、前回(税務訴訟に至るまでの手続きと、国税通則法の不?思?議?)ご説明させて頂きましたのでご参照下さい。尚、異議申立と審査請求を行う書面は税務署や審判所でもらうことが出来ますが、次のものを印刷して使って頂いても結構です。ご自分でなされる場合には費用は掛りません。税務署の処分に納得がいかない場合には、まずは不服申立をして下さい。法律で定められた期間内にこの不服申立をしないと、以後処分の取消を請求することができなくなってしまいます。
 異議申立書
 審査請求書:[審査請求書の作成、提出]→[審査請求書用紙及び記載要領]をクリックして下さい。

Q8.  一時所得で申告した後更正処分を受けた場合、実際にどのような税金を支払うことになるのでしょうか。

A8.  本税・過少申告加算税・延滞税を請求されることになります。
 過少申告加算税とは、申告期限内に提出された納税申告書に記載した金額が過少で更正する場合に課されるもので、課税割合(増差割合に対する)は原則として10%です。
 延滞税は、納付遅延に対する遅延利息に相当するもので、以下のとおりに計算されます。

 ※  なお、国税通則法上は7.3%とされている割合が、特例により現在は4.5%になっています。
上記は、期限内に申告した場合を前提としており、期限内申告していない場合は、
過少申告加算税ではなく15%の無申告加算税が課されることになります。

Q9.  更正処分をされて増えた税金はいつまでに払わなくてはならないのですか?

A9.  「法定納期限」というものがあり、通常は「更正通知書」に記載されています。一般的には「更正処分のあった日から1ヶ月以内」となります。ただ、この間にも日々延滞税は加算されていきます。従いまして、出来るだけ早く支払った方が良いでしょう。
Q10.  更正処分をされて増えた税金を支払わないとどうなりますか?

A10.  更正処分をされてその税金を支払わないと、まず税金を支払って下さいという内容が書かれた「督促状」が送られてきます。そしてそれでも支払がなされない場合には「差押え」といい、財産(自宅の土地や建物等)を国に差押えられてしまいます。
 しかし、一般的にはこの間に税務署から連絡があり納税をどうするかの打診があります。
 この税金につきましては、不服申立や裁判で納税者の主張が認められた場合にはその認められた部分が、「還付加算金」という利息と共に返ってきます。
Q11.  私もストックオプションの収入を一時所得で申告しました。過少申告加算税も支払っているのですが、新聞報道では取り消されていると出ていました。私も返してもらえますか?

A11.  今回のストックオプション課税では、平成10年分の申告までは「過少申告加算税と延滞税」が取り消されているようです。これは、平成10年分以前は一時所得ないし譲渡所得として指導がなされており、それに従って納税者が申告したにもかかわらず、後になって課税庁が給与所得として増額更正処分をしたためです。なお、平成11年分以降は税務署として「給与所得として申告するように」と指導しているから取り消さないとのことです。但し、平成10年分までにつきましても、申告するにあたっての当時の状況により判断しているようですので、取り消しがされていない場合には管轄の税務署に問い合わせてみて下さい。
Q12.  私は税務署から言われてストックオプションの収入を給与所得で申告してしまいました。今から一時所得だと言って差額分を返してもらうことは可能ですか?

A12.  法定申告期限から1年以内であれば、「更正の請求」といって、払い過ぎた税金を返してくれるよう求める手続きがあります。この用紙は税務署にありますから、その用紙に「間違って払い過ぎた税金の額と本来払うべき税金の差額」を記入して税務署に提出して下さい。この手続きをしませんと、前述の不服申立をすることが出来なくなってしまいます。
Q13.  不服申立をしても主張を認めてくれません。訴訟にしようと思うのですが費用はどれくらい掛りますか?

A13.  訴訟にするには基本的には法律事務所に依頼することになると思います(もちろん御本人が裁判を起こすことは可能です。ただ、税務訴訟のように専門的な訴訟の場合、ご自分でなさるのが難しいことも事実です)。この場合は弁護士の費用が掛ります。そして裁判所におさめる収入印紙代などの実費が別途必要です
 弁護士費用には着手金と成功報酬がありますが、着手金は事案をお受けしたときに頂きます。成功報酬は裁判で勝ったときに頂くものです。各弁護士会で、一般的な基準を定めた「報酬会規」を出していますので、そちらをご参考になさって下さい※。
 又、印紙代等の費用につきましても訴える額によって決まっています。
 ※  下記ホームページに「第二東京弁護士会報酬会規」が掲載されています。
http://www.dntba.ab.psiweb.com/houshuu/houshuukaiki.html
(文責 弁護士 間瀬まゆ子 / 税務部 高田貴史)