連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク第84回 納税者の納税地の異動と課税庁の処分

納税者の納税地の異動と課税庁の処分

 

Q 当社は、昨年、本店所在地を異動し、所轄税務署も、A税務署からB税務署に変更になりました。仮に、当社が、更正処分を受けることになったら、A税務署とB税務署のどちらが更正処分を行うのでしょうか。

 

A 更正処分は、原則として、異動後の納税地を所管するB税務署長が行います。ただし、B税務署長が納税者の異動の事実を知る機会がなかった場合や、異動後の納税地を探す努力をしても見つからなかったような例外的な場合には、旧納税地の税務署長であるA税務署長が更正処分をすることができるという特例があります。

 

(解説)

1.原則は「現在の納税地」の税務署長が行う

更正又は決定は、当然のことですが、その処分を行う正当な権限のある税務署長によって行われなければなりません。

そこで、国税通則法30条1項は、「更正又は決定は、これらの処分をする際におけるその国税の納税地(以下この条において「現在の納税地」という。)を所轄する税務署長が行う。」と定めています。法人税や所得税は、その納税者である会社や個人が所在地を異動して、納税地の異動が生じる場合があります。そのような場合は、原則として、異動後の納税地を所轄する税務署長が、更正又は決定の権限を持つことになるのです。

 

2.例外は「旧納税地」の税務署長が行う

ところが、納税地の異動があっても異動後の納税地が不明であるというようなことが生じる場合があります。例えば、法人の本店や主たる事務所の所在地は自由に変更ができ、新しい所在地を登記する必要はあるものの、それを行わない法人もいるため、異動後の納税地が不明になってしまう場合が想定されます。そのような場合に、更正又は決定の機会を失わないよう、例外として、異動前の旧納税地の税務署長にも、更正又は決定をする権限を与えています(国税通則法30条2項)。

ただし、これは例外であり特例ですから、特例が適用される要件は、以下のとおり、厳格に定められています。

①この特例の対象となる税目は、次のものに限ること。

   所得税、法人税、地方法人税、相続税、贈与税、地価税、課税資産の譲渡等に係る消費税、電源開発促進税

②課税期間が開始した時以後に納税地の異動があったこと。

③旧納税地の所轄税務署長において、その異動の事実が知れず、又は異動後の納税地が判明せず、かつ、その知れないこと又は判明しないことにつきやむを得ない事情があること。

 

この「やむを得ない事情」とは何でしょうか。これは、納税地の異動について申告義務を課されている者が、納税地異動の申告をしなかった結果、その異動前の納税地の所轄税務署長が異動の事実を知る機会を持たなかったときや、異動後の納税地を市町村役場等への照会や登記関係の調査等の努力をしても発見できなかったとき、などを言うとされています。いずれにせよ、具体的な事案に即して判断されることになります。

 

3.更正又は決定が競合した場合は?

納税地異動の場合に、上記2.の特例が適用されて、1つの法人税等について、2以上の税務署長の更正又は決定の処分が競合して行われたら、どの処分が有効なのでしょうか。

これについては、時間的に最も早く行われた処分を有効として、その後に行われた処分は効力を失い、その処分庁たる税務署長は、遅滞なく、その後に行われた更正又は決定を取り消さなければならないこととされています(国税通則法30条3項)。

 

鳥飼総合法律事務所 弁護士 佐藤香織

 

※ 本記事の内容は、平成27年3月末現在の法令等に基づいています。

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