連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第72回 従業員等による横領を原因とする重加算税の賦課

従業員等による横領を原因とする重加算税の賦課

 

 当社は運送業を営む株式会社ですが,税務調査をきっかけとして,従業員のXが,長年にわたり運送業務の売上を会社の口座ではなく,自己の名義の口座に振り込ませ,売上金を横領していたことが発覚しました。

 調査担当の税務署職員は,Xが横領した金額につき申告漏れがあったとして,当社に増額更正処分をするとともに,「隠ぺい仮装」の事実があったとして、35%の重加算税を課すと言っています。しかし,当社は,むしろXの横領行為の被害者であり,増額更正処分はともかく,重加算税を課されることは到底納得ができません。このような重加算税の処分は適法なのでしょうか。

 

1 従業員等による横領が行われた場合の課税関係

 設問のような事例では,原則として,横領された売上金は御社の益金に算入されます。その上で,会社の役員や従業員の横領行為により,会社が被った損害は損金となる一方,会社が従業員等に対して取得した不法行為に基づく損害賠償請求権は益金になります。

 この損金と益金の計上時期については,同時に計上すべきとする説(同時両建説・最高裁昭和43年10月17日判決)のほか,同時両建を原則としつつ,損害賠償請求権については,客観的に権利行使を期待できる状況になった(具体的には,会社が損害及び加害者を知った)事業年度への益金計上を認める考え方(東京高裁平成21年2月18日判決)などもあります。

 

2 重加算税の賦課の適法性

 名目的な取締役により設問のような横領行為が行われた事例において,裁判例は,「納税者本人が,相当の注意義務を尽くせば,役員や従業員の隠ぺい仮装行為を認識することができ,法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず,納税者においてこれを防止せずに前記行為が行なわれ,それに基づいて過少申告がされたときには,前記行為を納税者本人の隠ぺい仮装行為と同視して,納税者本人に重加算税を賦課することができる」として,会社に対する重加算税の賦課処分を適法としました(金沢地裁平成23年1月21日判決)。

 設問のような事例は,一人の担当者に特定の業務を任せきりにしており,他の従業員等からのチェックが及ばない場合に多いようです。

 会社はむしろ「被害者」であるという言い分は心情的にはもっともですが,このような裁判例がある以上,会社経営者は,従業員等の横領などの不正行為を防止するためのチェック体制を構築するなど,「相当の注意義務」を果たしていないと,重加算税を課されるリスクがあることを銘記すべきでしょう。

 

鳥飼総合法律事務所 弁護士 橋本 浩史

 

 

※ 本記事の内容は、平成27年3月末現在の法令等に基づいています。

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