連載 リスクコンシェルジュ~知財関連リスク 第23回 特許権の消尽と所有権留保

特許権の消尽と所有権留保

 

1.はじめに

一般に,特許にかかる物を,特許権者から正規に購入して再販売したり,自己使用したりする行為は,特許法上適法といわれています。では,特許権者が,特許にかかる物の一部について所有権を留保(所有権を移さないこと)し,第三者への譲渡・貸与等を禁止して販売(一部については貸与)していた場合に,その物を転売することはどうでしょうか。

平成26年1月16日,大阪地裁で,芯管つき薬剤分包用ロールペーパ(薬剤を入れる包装が中空の芯管に巻きつけられたものです。アルミホイルの銀紙が芯に巻きつけられている様子を想像するとわかりやすいでしょうか。)の特許権侵害に関する事件について判決の言い渡しがありました。詳細は,次のとおりです。

 

2.事実

原告は,芯管つき薬剤分包用ロールペーパ(以下,「原告製品」といいます。)の特許権者であり,原告製品を製造販売していましたが,その際,顧客である病院や薬局等の間で,芯管の所有権を留保しており,ロールペーパを使い切った顧客から芯管を回収するようにしていました。

被告は,原告の顧客から,使用済みの芯管を回収し,それに分包紙を巻き直して製品化し,販売していました。

原告は,被告に対し,この被告の行為が原告の特許権を侵害するものであるとして,製品の製造・販売の差止めや損害賠償等を請求しました。

 

3.裁判所の判断

被告は,原告製品が芯管を含めて譲渡されているから,特許権は「消尽」しており,被告の行為は原告の特許権を侵害していないと主張しました。

裁判所は,芯管の部分について,原告が,①芯管は分包紙を使い切るまでの間無償で貸与するものであること,②使用後は芯管を回収すること,③第三者に対する芯管の譲渡・貸与等は禁止すること,の3点について,④製品を販売する際に顧客に対して説明し,顧客も上記①~③について承諾していること,⑤製品やその梱包箱,原告のウェブサイト,カタログにも上記①~③の記載をしていること,⑥原告が芯管を返却した顧客に対し景品と交換できるポイントを付与しており芯菅の回収率が97%前後に上ることを指摘し,最終的な顧客である病院や薬局だけでなく卸売業者も含め,上記①~③の表示を十分に認識しており,原告製品が芯管を含めて譲渡されたものとはいえない(原告が譲渡したのは分包紙のみで,芯管については所有権を留保し,使用貸借している)として,原告の主張を認めました。

なお,被告が芯管に巻きつけて販売した分包紙の部分についても,裁判所は,原告製品と同一性を有するといいがたく,これを製品化する行為は本件特許発明の実施(生産)に当たるとして,原告の主張を認めています。

 

4.解説

一般に,特許にかかる物を,特許権者から正規に購入して再販売したり,自己使用したりする行為は,特許法上適法といわれています(最高裁平成9年7月1日判決参照)。しかし,特許法の条文には,このような行為が適法であることについて記載がありません。

このような行為が適法であることを説明する考え方としては,適法に取得した者の所有権の効果として特許権の効力は及ばないとするもの,特許権者が(黙示に)再販売や自己使用を許諾したことになるとするもの,特許権者が特許に係る物を適法に拡布した場合にその物について特許権はすでにその目的を達成し消尽(消耗,用尽)している,とするものなどがあります。

どのような考え方をとるかによって,本判決の理解の仕方も違ってくる可能性がありますが,特許にかかる物が適法に売却されたときも,その一部の所有権が留保され,譲渡・貸与等が禁止される場合に,この部分を転売することが特許権の侵害になることもある,ということは注意すべきでしょう。

 

鳥飼総合法律事務所 弁護士 香西駿一郎

※ 本記事の内容は、2014年1月現在の法令等に基づいています。
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