連載 リスクコンシェルジュ~知財関連リスク 第13回 そのコピー、著作権侵害ではありませんか?

そのコピー、著作権侵害ではありませんか?

 

 

 会社内で業務に関連する雑誌の記事をコピーして担当者に配布する、会議資料として書籍の関連箇所をコピーして使用する、等々、読者のみなさんの中にも、職場で書籍、新聞、雑誌等をコピーして使用したご経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。しかし、こうしたコピーをむやみに行った場合、著作権侵害に当たるとして、民事上の損害賠償責任や、場合によっては刑事上懲役刑や罰金刑を科される可能性があります。今回は、職場でのコピーに潜むリスク関連して「複製権」のお話をさせていただきます。

 

・複製権

 著作権には頒布権、譲渡権等、様々な権利(支分権)が含まれますが、その一つに「複製権」があります。これは、著作者が自らの著作物の複製(コピー)を許可するかしないかを決める権利です。

 この複製権を持つのは著作権者のみであり、したがって、第三者が著作権者に無断で書籍や新聞をコピーする行為は、著作権侵害となる場合があるのです。

 

・例外としての私的使用目的のための複製

 もっとも、著作権者の権利を保障して、創作的な表現を奨励することが重要である一方で、表現が社会に行き渡ることで文化の発展を促すことも重要です。著作権者からの許諾を得なければ複製が一切許されないというのでは、文化の発展を阻害することにもなりかねません。そこで、一定の場合には著作権者の許諾を得ずに複製が許されるものとされています。その一つが、「私的使用目的のための複製」です。

 すなわち、著作権法上、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするときは、一定の場合を除き、その使用する者が著作物を複製することができるとされています。簡単にいえば、自ら私的に使用する目的であれば権利者の許諾なしにコピーを取ることも許されるということです。

 これは、このような私的使用が全体の使用に占める割合はわずかであることから、著作権者の被る不利益は少ないこと、また、その都度使用者が著作権者の許諾を得るのは煩雑であることから認められている例外です。また、その背景には、プライバシーの点を含め法が個人の私的領域に入り込むことは謙抑的であるべきだとの価値判断もあります。

 したがって、個人が新聞や書籍をコンビニや家庭の複合機で複写することは少なくとも現時点では違法ではありません。

もっとも、冒頭で挙げた会社内での複写は、個人的な使用ではないので「私的使用」ではありません。そのため、著作権者の許諾なしに行うことは原則として認められません。

 

・日本複製権センター

 それでは、権利者の許諾なしに職場で書籍や新聞を複写して使用することは一切許されないのでしょうか。仮に許されないとすれば、例えば入手が困難な雑誌のバックナンバーの記事を会議で使用する場合や、情報共有のために配布する場合などに、いちいち著作権者から直接許諾を得なければならなくなり、かなり不便なこととなるでしょう。

 そこで、職場で書籍や新聞等を複写する場合に適法性を確保するための便利な方法として、公益社団法人日本複製権センター(JRRC)との間で契約を締結するという方法があります。契約には、包括許諾契約と個別許諾契約がありますが、包括許諾契約を締結であれば、JRRCに管理委託されている著作物をその都度許諾のための手続きを踏むことなく複写することができるようになります。

 こうした方法を取ることで、冒頭に挙げたようなコピーを安心して適法に行うことができます。

 

 複製権の侵害は、民事上の損害賠償責任や、刑事上の責任を問われることにもつながりかねません。学術、文化の発展という著作権法の理念からも、またこうした法的リスクを避けるためにも、書籍等のコピーの際には、著作権法の適法性を確保するよう努めることが重要です。

 

鳥飼総合法律事務所 弁護士 渡辺拓

※ 本記事の内容は、2013年3月現在の法令等に基づいています。

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