仮想通貨1~10(再録)

 

 

 

仮想通貨 2018/01/29 

 仮想通貨取引所への不正アクセスと仮想通貨の流出が報道されている。今回の報道で驚いているのは事件の核心ではなく、コインチェック社が被害者に賠償するための480億円もの内部留保を現預金として保有しているとするところだ。同社は2012年に創業とある。そして生業は仮想通貨の取引所だ。取引も盛り上がっているようだが、まだそれも最近の話である。さらに機関投資家が参加しているとの話も聞かない。短期間で個人の少額の取引を仲介するだけで、こんなに多額の利益を留保できたのは驚きである。利益が上がるたびに自己が仲介する仮想通貨に投資して、それが何百倍にもなったということか。

 

 

仮想通貨 2 2018/01/30 

 コインチェック社に対して、金融庁の行政処分として業務改善命令を出すと、麻生大臣がインタビューに答えていた。ちなみに業務改善命令より重いものとして業務停止命令がある。金融庁のHPから過去の行政処分の実績を一覧すると、上はメガバンクから下は名も知れぬ金融業者まで驚くほどたくさんの名前が出てくる。大手金融機関では載っていない銀行を探す方が困難かもしれない。これらの大手銀行には過去バブルがはじけた後公的資金が注入されたが、その返済計画の基本となる業務計画が、監督官庁に提出したものを大幅に下回ったことをとらえて出された業務改善命令が多い。過去仮想通貨の取引所として破綻したマウントゴックスは載っていなかった。金融庁の監督下になかったのか、すぐに破綻してしまったからなのか、理由はわからない。

 

 

仮想通貨 3 2018/01/31 

 コインチェック社のセキュリティーの甘さが非難の的であり、行政処分の理由とされている。仮想通貨のデータ保存がネットに常時接続状態であったということは、言ってみれば、家の玄関にはカギを掛けておいたが、家に侵入されると金庫の扉は開いていたということか。ただし、流出した通貨データの所在は分かっているし、ブロックチェーンの中で監視されているから身動きが取れないはずだ、とも言う。犯人をブロックチェーンの網で捕えられるのか、通貨を取り戻せるのか。結末に大いに関心があるが、もしそれらができれば、ブロックチェーン技術の面目躍如ということになろう。むかし銀行員は「現金その場限り」と教えられて、現金の過誤払の追及の難しさを叩き込まれたが、ブロックチェーンに監視された仮想通貨は、現金とは比較にならないほど安心安全な決済手段ということになる。

 

 

仮想通貨 4 2018/02/08 

 仮想通貨取引所における、取引所の自己資産と顧客資産の分別を信託を使って実現しようという開発がされているとの記事があった。FX取引や、有料老人ホームの入居保証金なども同様に信託によって顧客資産は分別管理されている。ただ実態としてFXに類似する仮想通貨取引において、信託による分別が登録条件とならなかったのはなぜか。「仮想」であるがゆえウォレットと呼ばれる電子財布を信託で実現することが難しかったのであろうか。自己資産と他人資産を法的に分別するのには信託は有効である。信託の基本機能と言ってもよい。同じ自己資産でも大事な資産だけ信託で分別しておくこともできる。信託銀行の商品で実現されているものもある。今後はマンションの修繕積立金のような大きな資産にも利用が広がるだろうか。

 

 

仮想通貨 5 2018/03/08 

 仮想通貨取引所に対する行政処分が本日日経の1面である。金融庁の検査官は大変だったのではないかと同情する。世間的に注目されているというプレッシャーもあったと思われるが、それ以上に先方の窓口になった経営者ないし管理部門の対応に面喰ったのではないか。おそらくかれらの多くは、IT経験あり、金融経験なし、起業経験あり、組織運営経験なし、長髪あり、ネクタイなしという人たちで、検査官が通常対峙している銀行や生保などの窓口とはまったく勝手が違ったのではないか。さらに、銀行等の内部管理の常識レベルからはかけ離れていて、何をどう指摘していいのか迷うことも多かったのではないか。金融庁としては自分の庭に地雷をばらまいてしまったことを悔やんでいるかもしれない。

 

 

仮想通貨 6 2018/03/22 

 コインチェック社から流出した仮想通貨NEMの追跡をNEMの普及団体が止めるそうだ。すでに、多くが流出とかかわりがない口座に流入したり、他の仮想通貨に交換されたりしたからだそうだ。ようは追跡を続けることが困難ないし続けても無駄だということだろう。とすると、流出時コインチェック社の幹部が、「流出した仮想通貨の所在は分かっているし、犯人はブロックチェーンの監視の中で身動きがとれないはずだ」という見解は絵空事だったことになる。決済手段としては、銀行を媒介とした法定通貨はもちろん、物理的な痕跡の残りやすい現金よりも始末が悪いということになる。これで本源的な価値として何を代表しているのかがあいまいなままだと、チューリップの二の舞になってしまいそうだ。

 

 

仮想通貨 7 2018/05/02 

 仮想通貨取引業者、あるいはみなし業者は軒並み行政処分を受け、一部は廃業し、問題の発端となったコインチェック社は、マネックスグループが買収してひと段落ついた感がある。今回私も大いに勘違いし、かつ多くの市場関係者も見誤ったのが、コインチェック社が「取引所」であって、そんな多額の賠償に耐えるほどの収益を短期に上げられたわけがないという「誤解」だ。コインチェック社は「取引所」でもあり「販売所」でもあったことが見落とされていた。ここで「販売所」とは、自ら顧客に仮想通貨の売買値を提示して顧客の注文に立ち向かうだけでなく、自ら仮想通貨の在庫(ポジション)を取って相場動向に賭けたり、顧客注文に応じる原資にしていたということだ。かつての外国為替市場の用語だと「マーケトメイカー」であり「ポジションテイカー」である。

 

 

仮想通貨 8 2018/05/07 

 取引業者許認可の基準として、中立な立場で、顧客の売買をマッチングさせるだけの「取引所」と、自らの立場で、顧客に価格を提示したり自らポジションを取ったりする「販売所」が一つの会社の中に同居できることが不思議だ。また、仮想通貨が何によって価格が変動するかと言えば、ほとんど全て仮想通貨そのものの需給だろう。とすれば、マーケットメイカーないし取引所として顧客の注文状況をほぼ寡占的に(取引業者は外為取引をする銀行業者等に比べて圧倒的に少ない)把握して、自らもポジションテイカーとしてその需給要因を作ることに参加していれば、仮想通貨の売買で勝つことは容易であったろう。外国為替であればその変動にはもちろん需給要因もあるが、経済や政治といった誰でもわかるファンダメンタルによって左右される要素が多く、これらの情報は独占されない。だから公平公正なマーケットになるのである。

 

 

仮想通貨 9 2018/06/12 

 競争相手の少ない寡占的な市場では、取引業者(マーケットメイカー)は大きな売買幅を提示することができる。例えば、外国為替でも日本円やユーロなどは、取引規模も取引参加者も多いから、為替市場やデリバティブ市場の売買値幅も狭く、取引業者の利鞘取りは困難になる。反面、東欧の通貨やアジアのローカル通貨は売買値幅は広く、取引業者は大きな利鞘を取れる。今後仮想通貨の市場取引が拡大し取引参加者も増えれば、取引業者の利益率は縮小していくだろう。取引業者にとってはこの程度の認知度で、取引参加者もこの程度に留まる方が、利益率にとってはいいのかもしれない。

 

 

仮想通貨 10 2018/06/25 

 6月20日の日経新聞によれば、すでに登録されている仮想通貨取引業者に対して軒並み業務改善命令が出されている。反社会的勢力の遮断やマネロンダリング防止体制が不十分というのが主な理由とのことである。これらは金融機関におけるコンプライアンスの「基本のキ」であって、これらに問題があったとすれば、登録の際いったい何を審査していたのだろうということになる。今国会の重要法案になっているIR法制に関連して、海外のカジノ運営業者は、まさにこの二つをカジノ運営上の最大のリスクとして、これを防止するために多大な資源を投下している。最近起業したばかりの仮想通貨取引業者が、国際水準にかなった反社、マネロン防止体制を短時間でつくれるとはとても思えないがどうか。

鳥飼総合法律事務所 奈良正哉

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奈良 正哉

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