不動産取引に必須の印紙税の知識(27)―印紙の貼り方、消印の方法―

出版・掲載

月刊 不動産フォーラム21 連載

業務分野

印紙税相談

詳細情報

公益財団法人不動産流通推進センター「月刊 不動産フォーラム21」で連載をしております。2019年12月号の記事を掲載致します。

その他の記事はこちらの書籍執筆、雑誌連載のご案内をご覧ください。


不動産取引に必須の印紙税の知識(27)
―印紙の貼り方、消印の方法―

沼野 友香
鳥飼総合法律事務所弁護士
鳥飼総合法律事務所印紙税相談室所属
監修:鳥飼重和

 [ぬまの・ゆか]鳥飼総合法律事務所弁護士。中央大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院法務研究科修了。 (株)日本経営税務法務研究会主催、新日本法規出版(株)協賛による「印紙税検定(初級篇)®」の立ち上げに参画、「印紙税検定(中級篇)®」の講師を務める。鳥飼総合法律事務所印紙税相談室の創設メンバー。(email:inshi-zei@torikai.gr.jp

1 まえがき
 課税文書を作成した場合、その課税文書の作成者は印紙税を納付しなければなりません。印紙税の納付方法にも種類がありますが、今回は納付方法として一般的な、課税文書に印紙を貼り付けて納付する方法について解説をします。

2 印紙税の納付方法
(1)文書に印紙を貼る方法
 課税文書の作成者は、税印押なつなど特別の場合を除いて、その文書の作成の時までに、特別の場合を除いて、その文書に課される印紙税に相当する金額の印紙をその文書に貼り付ける方法で印紙税を納付しなければなりません。

 なお、課税文書の作成の時期は、その文書を作成した目的によって異なります。

 文書の作成目的に応じた作成時期は次のようになります。

課税文書の目的

作成の時

文書の種類

相手方に交付する目的で作成される課税文書

交付の時

領収書、受取書、請書、差入書など

契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成される課税文書

証明の時

両当事者の署名や押印のある契約書、合意書、覚書など

一定事項の付け込み証明をすることを目的として作成される課税文書

最初の付け込みの時

通帳、判取帳など

認証を受けることで効力の生じる課税文書

認証の時

定款

第5号文書(合併契約書または吸収分割契約書もしくは新設分割計画書)のうち新設分割計画書

本店に備え置く時

新設分割計画書

 したがって、両当事者の署名押印の揃う、いわゆる契約書形式の文書では、その証明の時、すなわち両当事者の署名押印が揃う時までに印紙を貼る必要があります。また、注文請書のように一方当事者が他方当事者に交付する形式の文書では、その文書を交付する時までに印紙を貼る必要があります。

(2)その他の納付方法
 このように印紙税は課税文書に印紙税額に相当する金額の印紙を貼り付けて納付するのが原則とされていますが、課税文書を大量に作成する会社などでは課税文書に逐一印紙を貼り付けることが難しいこともあります。そこで、印紙税法には、文書に印紙を貼り付ける納付方法のほか、いくつかの納付方法が定められています(税印を押す方法、印紙税納付計器により納付印を押す方法、書式表示による方法)。

3 印紙税を納付する際に使用する印紙
 印紙税を納付する場合の印紙については、収入印紙でなければなりません。国が発行している印紙には、収入印紙のほかに、自動車重量税印紙、雇用保険印紙、健康保険印紙、特許印紙などがありますが、これらの収入印紙以外の印紙を貼って代用することはできません。

 また、すでに彩紋が汚染した収入印紙や消印されている印紙を課税文書に貼り付けても、印紙税を納付したことにはなりませんので、過怠税の対象となります。

4 印紙の消印
(1)印紙の消印のポイント
 課税文書に印紙を貼る場合には、印紙の再使用を防止するという趣旨から、その文書と印紙の彩紋(模様の部分)とにかけてはっきりと印紙を消さなければなりません。また、一見して誰が消印したかが明らかになるように消印をする必要もあります。消印は印章のほか署名ですることもできますが、通常の方法ではその消印を取り去ることができないようにする必要があります。鉛筆で署名したもののように簡単に消し去ることができるものは、消印をしたことにはなりませんので、注意が必要です。

 印紙の消印に関するポイントは次のとおりです。

・  消印は、課税文書と印紙の彩紋とにかけてはっきりと消さなければならない。

・  消印する人は、文書の作成者のみならず、代理人、使用人、その他従業員でもOK。

・  消印は、印章のほか署名によることもできる。

・  消印の印章は、課税文書作成時に契約当事者として押印した印でなくても、作成者、代理人、使用 人、従業員の印章であれば、どのようなものでもOK(氏名・名称などを表示した日付印、役職名、名称などを表示したゴム印でもOK)。

・  消印の署名は、自筆による。

・  消印の署名は、氏名を表すものでも、通称、商号のようなものでもOK。

・  単に「印」と表示したもの、斜線を引いたものは印章や署名に当たらないので、消印をしたことにはならない。

・  消印は、誰がしたか一見してわかるようにはっきりとする必要がある。

・  消印は、通常の方法では消し去ることができないことが必要。簡単に消し去ることができるものは消印をしたことにはならない。

(2)事例検討
 図1の文書は不動産売買に関する契約書です。この文書に印紙を貼る必要があるか、印紙を貼る必要があるとすれば、その印紙代は誰が負担し、印紙の消印は誰がするかについて考えてみてください。

図1

不動産売買契約書

  売主甲と買主乙は、以下のとおり不動産売買契約を締結する。

 第1条 甲は、乙に対し、下記物件を売り渡し、乙はこれを買い受けた。
 (不動産の表示)
 第2条 売買代金は、金5,000万円とする。

 (省略)
  契約の成立を証するため、本書3通を作成し、各自記名押印のうえ各1通を所持する。

   令和元年7月1日

                             甲 印 
                             乙 印
                        (仲介人)丙 印

 図1の文書は本連載第22回で解説をした文書です。図1では売主甲、買主乙に加え、仲介人丙も不動産売買契約書末尾に押印をしており、作成した契約書3通のうち各々が1通を所持しています。

 図1の文書は、不動産の売買について、当事者双方がその契約の成立を証明する目的で作成する文書であり、不動産の譲渡に関する契約書として第1号の1文書に該当し、契約金額5,000万円に応じた2万円(軽減税率適用で1万円)の印紙を貼る必要があります。

 図1の文書のように、複数人が共同して作成した課税文書の場合、その印紙税は共同作成者全員が連帯して納めることになります。もっとも、この不動産売買契約の当事者は、甲と乙ですから、仲介人丙はこの文書の作成者=印紙税の納税義務者ではありません。したがって、甲と乙が丙の所持する文書を含めた3通分(軽減税率適用により、1通1万円×3通=3万円。以下同じ。)の印紙税を連帯して納めることになります。連帯して印紙税を納める義務を負うということは、その印紙税の全額について作成者全員が各々納税義務を負うということです。そして、作成者のうち誰かが全額を納税すれば、その他の作成者全員についても納税義務が消滅します。甲乙で半額の1.5万円ずつ負担するとしても、甲乙のいずれかが全額の3万円を負担するとしても当事者の取り決めは自由ですが、印紙税法上、各自の負担分を主張して納税義務を免れることはできません。

 では、印紙の消印は、甲乙双方が行わなければならないのでしょうか。

 消印は印紙の再使用を防止することを目的とするものなので、複数の人が共同して作成した文書に貼り付けた印紙でも、その作成者のうち誰か1人が消せばよいことになっています。図1の文書では、甲と乙の双方が消印しても甲と乙のどちらか1人が消印しても差し支えありません。

5 まとめ
 今回は実務上ご相談の多い、印紙の貼り方、印紙の消印の方法について解説いたしました。実際に印紙を貼る際には改めて確認をしてみてください。

以上

その他の記事はこちらの書籍執筆、雑誌連載のご案内をご覧ください。

関連する論文