不動産取引に必須の印紙税の知識(16)ー印紙税における一の文書ー

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不動産取引に必須の印紙税の知識(16)
―印紙税における一の文書―

沼野 友香
鳥飼総合法律事務所弁護士
鳥飼総合法律事務所印紙税相談室所属
監修:鳥飼重和

 [ぬまの・ゆか]鳥飼総合法律事務所弁護士。中央大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院法務研究科修了。 (株)日本経営税務法務研究会主催、新日本法規出版(株)協賛による「印紙税検定(初級篇)®」の立ち上げに参画。鳥飼総合法律事務所印紙税相談室の創設メンバー。(email:inshi-zei@torikai.gr.jp

1 まえがき
 印紙税は「一通」の証書または「一冊」の通帳等を作成するごとに納税義務が発生します。そして、印紙税法はこれら「一通」の証書または「一冊」の通帳等を「一の文書」と総称して、原則として「一の文書に対しては1個の課税」ということを定めています。

 これまでの連載において、本契約書を作成し印紙を貼っている場合であっても、課税要件をみたす変更契約書、覚書等を作成すれば別途、作成した通数分の印紙税が発生する旨説明してきました。もっとも、本契約書と変更契約書、覚書等が全体で「一の文書」であると判断される場合には、一通分の印紙税の負担で済むことになります。

 今回は、印紙税の課税単位となる「一の文書」について説明をします。

2 課税単位である「一の文書」の意義
 印紙税法が規定する「一の文書」とは、その形態からみて1個の文書と認められるものをいい、文書の記載証明の形式、紙数の単複は問いません。したがって、1枚の用紙に2以上の課税事項が各別に記載証明されているものは、一の文書となります。たとえば、1枚の用紙に土地の賃貸借契約成立の事実と、賃貸人が賃借人から保証金等を受領した事実が記載され、契約当事者が署名押印している文書の場合、記載証明の形態からみれば、土地賃借権の設定に関する契約書(第1号の2文書)と金銭の受取書(第17号文書)の二つの文書とみられますが、一の文書として取り扱われます(図1)。なお、当該文書が第1号文書か第17号文書のいずれに該当するかについては、所属の決定に関するルールによって決まることになります(本連載第5回、第6階[2018年2月号、3月号]参照)。

 また、2枚以上の用紙が契印等により結合されているものは、一の文書になります。したがって、先ほどの例で、1枚の用紙に土地の賃貸借契約成立の事実が記載証明されており、もう1枚の用紙に賃貸人が賃借人から保証金等を受領した事実が記載証明されている場合、これらが契印等により結合されていれば、1枚1枚に各別の課税事項が記載証明されていても一の文書となります(図2)。他方で、契印等により結合されていなければ、1枚の用紙ごとに一の文書となり、合計して二つの文書となります。

 ただし、文書の形態、内容等から当該文書を作成した後切り離して行使または保存することを予定していることが明らかなものについては、それぞれ各別の一の文書となります。

図1 1枚の用紙に2個の課税事項が記載証明された文書が一の文書と扱われる例

土地賃貸借契約書

第1条     賃貸人甲野太郎は、その所有する下記表示の土地を賃借人乙山次郎に賃借し、乙は
                 これを賃借し、賃料を支払うことを約した。

第2条     賃料は、月額20万円とする。

第3条     乙は甲に対し、保証金60万円を支払うものとし、本日甲はこれを受領した。

(以下中略)

平成30年12月1日

                          甲野太郎 印     乙山次郎 印

 

図2 1枚1枚に各別の課税事項が記載証明されていても一の文書と扱われる例

土地賃貸借契約書

契印

綴   第1条 賃貸人甲は、その所有する下記表示の土地を賃借人乙に賃借し、乙はこれ 

じ      を賃借し、賃料を支払うことを約した。

る   第2条 賃料は、月額20万円とする。

    第3条 乙は甲に対し、保証金60万円を支払うものとする。

(以下中略)

平成30年12月1日

                        甲野太郎 印     乙山次郎 印

契印

 

契印                  受取書

平成30年12月1日

     乙山次郎 殿

綴                 金60万円也

じ              上記金額受け取りました

る     但し、平成30年12月1日付土地賃貸借契約書に基づく保証金として

甲野太郎 印

契印

3 原契約書と同一日に同一の当事者が作成した附属覚書を原契約書に綴じ込む場合
 原契約書と同一日に同一の当事者が作成した附属覚書を原契約書に綴じ込む場合には、原契約書の一部をなすもの、または原契約書の関連文書として併せて保存しているものと考えられますので、附属覚書が原契約書に契印等により結合されていれば、全体で一つの文書とみて、附属覚書に別途所定の印紙を貼る必要はありません。

 ただし、以下の場合には、別途附属覚書にも所定の印紙貼付の必要がありますので、注意が必要です。

・原契約書と同一の当事者が附属覚書を作成し原契約書に契印等により結合されているが、原契約書と附属覚書の作成日が異なるもの
・原契約書と同一日に附属覚書を作成し原契約書に契印等により結合されているが、原契約書と附属覚書とで当事者が異なるもの
・原契約書と同一日に同一の当事者が作成した附属覚書ではあるが、原契約書にホッチキス留で綴じ込まれているのみで契印等により結合されていないもの

4 原契約書に後日課税事項を追記する場合
 1枚または1綴りの用紙により作成された文書であっても、その文書に各別に記載証明された部分の作成日が異なる場合や、原契約書の末尾や余白等同一紙面を使用して、後日、原契約書とは作成時期を異にして課税事項を追記するような場合は、各別に異なる日付で記載証明をした時点あるいは追記をした時点で新たな課税文書を作成したものとみなされます。

 例えば、図3のように甲野太郎が金銭消費貸借に関する借用証(第1号の3文書)を作成した日付と、保証人乙山次郎が債務の保証(第13号文書)を約した日付が異なる場合、乙山次郎が保証契約の追記をした時点で新たに課税文書が作成されたことになります。したがって、図3の金銭借用証は1枚の用紙により作成された文書ではありますが、消費貸借に関する部分は第1号の3文書に、保証契約に関する部分は第13号文書に別途それぞれ該当することになり、それぞれの税率に応じた印紙貼付が必要となります。

図3 

金銭借用証

金100万円也

上記金額確かに借用いたしました。
平成31年12月31日までには返済いたします。
平成31年1月1日

                               甲野太郎 印

 

乙山次郎 殿

上記金額を甲野太郎が平成31年12月31日までに返済できないときは私が全額返済いたします。

平成31年1月4日

                                   丙川三郎 印

 

5 まとめ
 以上のように、印紙税法が規定する「一の文書」とは、その形態からみて1個の文書と認められるものか否かという点から判断をすることができますが、形態からみて一の文書と判断されうるものであっても、その用紙に後に課税事項を追記する場合には注意が必要です。

 また、様々な理由から原契約書とは別に附属覚書等を作成して契約内容を補充等する場合には、原契約書の作成日と同一日に同一当事者が作成した文書であれば、原契約書に当該覚書を契印等で結合することによって、覚書に本来かかる印紙税を節税することができます。このような方法で契約を締結することが多い場合には、ぜひ活用してみてください。

以上

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