不動産取引に必須の印紙税の知識(13)一方当事者の作成する契約書⑵

著者等

山田 重則

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月刊 不動産フォーラム21 連載

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印紙税相談

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不動産取引に必須の印紙税の知識(13)
―当事者の一方が作成する文書について(2)―

1 今回のテーマ
 第3回の連載(―当事者の一方が作成する文書について―)では、当事者の一方が作成する文書のうち、申込書、注文書、依頼書といった文書を取り上げ、これらの文書が契約書となる場合について解説をしました。法律上、契約は申込みとそれに対する承諾によって成立しますから、通常、申込みをした事実を証明するにすぎないこれらの文書が契約書になる場合があるというのは多くの方にとって意外な結論だったのではないでしょうか。

 今回は、これらの文書と同様に、当事者の一方が作成するにもかかわらず、契約書と判断される可能性のある文書について解説します。「当事者の一方が作成する文書は、契約書にあたらない。」と誤解している方が多く、印紙の貼り漏れが起きやすいので、要注意です。過去、多くの企業がこの点に関する誤解から、数千万円の過怠税を課されるに至っています。

 2 当事者の一方が作成する文書が契約書になる場合
 ある文書が不動産売買契約書(第1号の1文書)、土地賃貸借契約書(第1号の2文書)、請負契約書(第2号文書)といった文書として印紙税を課されることになるのは、その文書が契約書にあたる場合です。では、契約書とはどのような文書でしょうか。契約書とは、両当事者の合意を証明する目的で作成される文書をいいます。このように両当事者の合意を証明する目的で作成される文書であれば足り、契約書という名前の文書であることは必要ではないのです。ある文書が契約書にあたるか判断する際には、「その文書が両当事者の合意を証明する目的で作成された文書にあたるか?」ということを考えることになります。

 では、どのような文書が「両当事者の合意を証明する目的で作成された文書」にあたるのでしょうか。これは、文書の記載内容から客観的に判断することになります。具体的には、文書の表題や合意の成立を示す文言の有無、債務の承認の有無といった点を考慮して判断することになります。以下、順に解説をしましょう。

 3 文書の表題
 先ほど、ある文書が契約書にあたるためには、契約書という表題の文書であることは必要ではないと述べました。しかし、だからといって文書の表題を確認する必要はないということにはなりません。文書の表題は、一般的にその文書がどのような文書であるのかを端的に示すものであるため、ある文書が契約書にあたるかどうかを考える上では重要なヒントになります。そして、文書の表題が、念書、請書、承諾書、覚書、差入証、証書、約定書等となっている場合には、基本的にはその文書は契約書と判断されます。なぜなら、取引通念上、このような表題の文書には、当事者間で合意した事実を記載することが多いためです。

 例 売渡証書

売 渡 証 書

―金 3000万円― 

 私は、末尾記載の不動産を上記金額にて、貴殿に売渡し、代金領収致しました。

 本物件につき、抵当権、質権、地上権、賃借権等所有権の行使を阻害すべき権利の設定等は全くないことを保証致します。後日のため、売渡証書を差し入れます。

  平成30年8月25日

売主 甲
買主 乙 殿

(不動産の表示)

 この文書は、不動産の売主甲が買主乙に対し交付される文書であり、売主という当事者の一方が作成する文書にあたります。この文書中には、「甲と乙は甲所有の不動産の売買契約につき、合意した」というような両当事者の合意を示すような文言はありません。しかし、この文書の表題は、売渡「証書」であり、上記の通り、取引通念上、当事者間で合意した事実が記載されることが多いといえるため、この文書は基本的には契約書と判断されます。このように文書中に両当事者の合意を示すような文言が1つもなくとも、文書の表題だけを理由に契約書と判断されることがありますので、十分な注意が必要です。

4 合意の成立を示す文言の有無
 当事者がある事項について合意に至った場合、「甲と乙は、以下の事項につき合意した」、「甲と乙は、以下の通り、契約を締結する」といった文言が使用されることが多いといえますが、それ以外にも当事者が合意に至ったと判断される可能性の高い文言があります。例えば、文書中に「承諾する」、「引き受ける」、「請ける」、「確認する」というような記載がある場合、そのような文書は契約書と判断される可能性が高いといえます。なぜなら、取引通念上、当事者の一方からの申込みを当事者の他方が承諾する場合、このような文言が使用されることが多く、当事者間の合意を証明する目的で作成された文書といえるためです。

 例 注文請書 

工 事 注 文 請 書

 平成30年8月25日

甲 殿 

乙建設株式会社

  下記注文お請けいたします。

工事名称

請負金額

納期

甲邸リフォーム工事

3,000,000円

平成30年10月25日

  この文書は、乙建設株式会社から甲に対して交付された文書であり、乙建設株式会社という当事者の一方が作成する文書にあたります。この文書中には「甲と乙は甲邸リフォーム工事請負契約につき、以下の通り、合意した」といった両当事者の合意を明確に示すような文言はありません。しかし、この文書には、「下記注文お請けいたします」という文言があり、これは甲からなされた申込(注文)を乙が承諾するということを意味しますから、この文書は通常、両当事者の合意を証明する目的で作成された文書といえます。

そもそもこの文書の表題は「…請書」なので、先に述べた通り、文書の表題の点からもこの文書は契約書と判断される可能性が極めて高いといえます。なお、仮に、この文書の表題が「回答書」というものであったとしても、「お請けいたします」という文言があるため、同様に契約書と判断されることになります。

 5 債務の承認の有無
 文書の表題が、念書、請書、承諾書、覚書、差入証、証書、約定書等となっておらず、しかも、文書中に「承諾する」、「引き受ける」、「請ける」、「確認する」というような記載がなかったとしても、契約書にあたる場合があります。それは債務者が自らの債務について自認することが記載されている場合です。人は通常、率先して自らに不利になるような虚偽の事実を述べることはなく、そのような事実を述べている場合には真実である可能性が高いといえます。このような経験則を前提として、裁判においては自らの債務を自認する文書は当事者間の合意を証明する有力な証拠となります。そのため、当事者の一方が自らの債務について自認する文書を作成した場合、合意の成立を証明する目的で作成した文書にあたると判断される可能性があるのです。

 例 回答書 

回答書 

平成30年8月25日

甲 殿

  乙建設株式会社

  私は、平成30年10月25日までに、東京都千代田区神田小川町1-3-1所在の貴殿所有のビルの改装工事を完了させる義務を負うことを認めます。

  この文書は、乙建設株式会社から甲に対して交付された文書であり、乙建設株式会社という当事者の一方が作成する文書にあたります。そして、先に述べた文書の表題の点や合意の成立を示す文言の有無の点から検討すると、この文書は契約書にはあたりません。しかし、この文書には「…完了させる義務を負うことを認めます」という文言があり、乙建設株式会社が仕事の完成という請負契約上の債務を自認することが記載されています。したがって、この文書は、当事者の一方である乙建設株式会社が自らの契約上の債務について自認する文書にあたるため、契約書と判断される可能性があります。

 6 まとめ
 当事者の一方が作成する文書であっても契約書にあたることがあるということを念頭に、今回、挙げたような視点から、契約書にあたらないか判断することが重要といえます。

鳥飼総合法律事務所 弁護士 山田重則

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