鳥飼総合法律事務所

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「ピンク・レディ事件」最高裁判決-パブリシティ権侵害が認められる要件

 
投稿者
中村隆夫
取扱分野
知的財産・IT
 

1.概要

既に報道などで多数紹介されていますが、平成24年2月2日に、最高裁がいわゆる人のパブリシティ権について正面から判断する判決を初めて出しました(判決文はこちら)。

事案としては、ピンク・レディーのお二人が、「ピンク・レディ de ダイエット」というピンク・レディの振り付けを活用したダイエット法の特集記事を掲載した雑誌の中で、自らの写真を無断掲載され、パブリシティー権を侵害されたとして、雑誌の発行元に対して計約370万円の損害賠償を求めた訴訟とされています。

今回の判決は、パブリシティ権を人格権に由来するものとして一定の要件のもとで保護されるべきものであることを最高裁として初めて明言したところに大きな意義があるといえます。しかしながら、裁判の結論としては、この裁判で問題とされた雑誌によるピンク・レディの写真等の無断使用については、損害賠償を請求されるようなパブリシティ権侵害には当たらないとしてピンク・レディ側の上告が棄却され、ピンク・レディ側の敗訴が確定しています。

 

2.背景

人のパブリシティ権については、これまでも、「マークレスター事件」(東京地判昭51.6.29 判時817号22頁)、「おニャン子クラブ事件」(東京高判平3.9.26 判時1400号3頁)、「ブブカスペシャル7事件」(東京高判平18.4.26 判タ1214号91頁)など、下級審レベルでは、それが保護されるべき法的権利であるとの判断が多数出されていたところでした。

したがって、今回の最高裁判決は、パブリシティ権という権利を新たに認めたものというよりは、パブリシティ権という保護されるべき権利があることはいわば前提として、そのパブリシティ権の根拠がどこにあり、どのような要件を満たす場合に、表現の自由など他の保護されるべき利益等を犠牲にしても損害賠償などの救済が与えられるべきかという点の判断基準を一定程度明らかにしたところに意義があるものといえるでしょう。

他方、人ではなく、いわゆる物のパブリシティ権については、「ダービースタリオン事件」(東京高判平14.9.12 判時1809号140頁)や「ギャロップレーサー事件」(最判平16.2.13 判時1357号77頁)などによって、その保護の必要性を否定する方向の判断がほぼ固まっているといえます。

つまり、物の場合は、人のパブリシティ権の場合とは大きく異なる結論になっているわけです。ここでは、物に対する所有権は、物の有体物としての面に対する排他的支配権を持つだけであり、物の無体物としての面における経済的価値の利用についてまで排他的に支配するものではないため、第三者が物の顧客誘引力など無体物としての面の経済的価値を無断で利用したとしても、そうした利用行為が物の所有者の所有権を侵害するものではない、というようなことが、最高裁においても判断の根拠としてあげられています。

 

3.本判決の内容

さて、それでは、今回の最高裁判決の内容をみていきましょう。
まず、次のように、「パブリシティ権」を、「人の氏名や肖像等が有する顧客誘引力を排他的に利用する権利」と定義付け、それが人格権に由来する権利の一内容を構成するものであると明言しています。

人の氏名,肖像等(以下,併せて「肖像等」という。)は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有すると解される。そして,肖像等は,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は,肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから,上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。

その一方で、以下の様に、パブリシティ権には権利が制限される場面があるということを指摘しています。

他方,肖像等に顧客吸引力を有する者は,社会の耳目を集めるなどして,その肖像等を時事報道,論説,創作物等に使用されることもあるのであって,その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。

そして、その結果として、肖像等を無断で使用する行為がパブリシティ権を侵害することになり、不法行為法上も違法とされる場合について、以下の三つのパターンを具体例として上げつつ、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」に限られるとしています。

①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,
②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,
③肖像等を商品等の広告として使用するなど,

その上で、本判決は、まず、ピンク・レディの写真や氏名などの肖像が顧客誘引力を有することを認めた上で、本件においては、ピンク・レディの写真が約200頁の雑誌全体のうちの3頁の中で使用されたに過ぎないこと、使用された個々の写真の大きさが小さいこと、本件記事の内容などからみて、ピンク・レディの写真は、あくまでも記事の内容を補足する目的で使用されていたというべきであるとしています。

そして、その結果として、被上告人がピンク・レディの写真を雑誌に無断で掲載した行為は、専らピンク・レディの写真の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえないため、不法行為法上違法であるとはいえないと結論付けました。

 

4.検討

この判決に付されている金築誠志裁判官の補足意見には、この判決の背景となった考え方や想定される社会的意義などが比較的詳細に解説されています。
この補足意見によれば、その肖像が顧客吸引力を有するような著名人は、様々な意味において社会の正当な関心の対象となり得る存在であって、その人物像や活動状況等の紹介、報道、論評等を不当に制約するようなことがあってはならないとされます。そして、ほとんどの報道、出版、放送等が商業活動として行われていることにも鑑みれば、肖像等の商業的利用一般をパブリシティ権の侵害とすることは適当でなく、侵害を構成する範囲は、できるだけ明確に限定されなければならないとしています。

補足意見におけるこのような解説からも分かるとおり、本最高裁判決は、人のパブリシティ権を初めて正面から認めたものではあるものの、肖像等の商業的利用がパブリシティ権を侵害していると構成される範囲をかなり限定的に絞り込んだ判決であると見ることが出来るように思われます。
「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」という要件設定自体が、そもそもかなり限定的であるように思えます。そして、パブリシティ権侵害の具体的な場面の例としてあげられているものも、①の「肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用」するパターンや、③の「肖像等を商品等の広告として使用する」パターンというのは、利用形態を容易に特定しやすい内容となっており、かなり限定的な利用形態であるといえると思います。②の「商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付」するというパターンだけが、やや幅広く読み取れる印象がありますが、他の文脈などからすれば、商品そのものの内容としては肖像等を用いる必然性がないのに、ただ単に商品の差別化を図り、それによって顧客を吸引するためだけに肖像等を商品に付する場合ということになるのではないかと考えられます。

なお、金築裁判官の補足意見では、その最後で、上記のパブリシティ権侵害の要件の冒頭にある「専ら」の解釈について、「この文言を過度に厳密に解することは相当でない」と述べています。パブリシティ権侵害が構成される範囲をあまりに限定的に絞り込みすぎることにも問題があると考えている証左といえるでしょう。

ここから先は、今回グッと絞り込まれたパブリシティ権侵害の要件に関して、どのような限界事例において侵害が認められるのか、あるいは認められないのかといような点について、裁判例が蓄積されていくことが望まれるように思います。そこでは、上記の侵害パターンの②に当たるのか当たらないのかというあたりが、一つの主戦場となるのかも知れません。

 

2012年2月5日

 

【注 意】本稿は一般的な情報を提供するものであり、法的助言を目的とするものではありません。個別の事案については、当該案件の個別の状況に応じて、弁護士等 専門家の助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載された見解は筆者の個人的見解であり、鳥飼総合法律事務所を含む一切の組織の見解ではありません。

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