会社法QA 第14回 決算公告

 ※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載された内容です。その後の改正はこちらをご覧ください。

【テーマ】 決算公告

【解説】
1 旧商法時代の決算公告
 旧商法下の株式会社の決算公告は、次のようになっていました。株式会社の取締役は、定時総会の承認後遅滞なく、貸借対照表またはその要旨を公告しなければなりませんでした(旧商法283条4項、同条5項、498条1項2号)。もっとも、この公告は、取締役会の決議をもって、インターネット上のウェブサイトに貸借対照表を、定時総会の承認を得た日後5年を経過する日まで表示することでも代用できました(旧商法283条5項、7項、旧商法施行規則10条)。ただし、商法特例法条の大会社・みなし大会社では、定時株主総会の承認を経る場合のほか、報告で足りる場合もあるが(会計監査人の適法意見があり、かつ、監査役会の不相当意見の付記がない場合、貸借対照表・損益計算書について定時株主総会への報告で足りる)、このような承認・報告をした後、当該会社は、貸借対照表・損益計算書もしくはその要旨を公告するか、または貸借対照表・損益計算書をインターネット上のウェブサイトに表示することにより開示しなければならないとされていました(旧商法特例法16条2項、3項、5項、21条の31第3項、30条1項2号14号)。これに対して、有限会社については、決算公告が義務づけられていませんでした。

2 会社法の決算公告
 会社法は、従前の有限会社の制度をとりこんで、株式会社制度を設計するにあたり、上記の決算公告の制度も整備しています。すなわち、会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後、遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表および損益計算書)を公告しなければなりません(440条1項)。公告の方法は、官報、時事に関する日刊紙、または電子公告のうちから会社が選択できます(939条1項)。官報または日刊紙にするときは、貸借対照表の要旨の公告で足ります(440条2項)。また、法務省令に定めるところにより、電磁的方法により貸借対照表を開示するときは、右の公告は不要となります(同条3項)。さらに、証券取引法24条1項により有価証券報告書を提出すべき義務がある会社は、これらの公告をする義務を負わないこととされました(同条4項)。
 決算公告の目的は、利害関係人に対して、株式会社の計算書類に関する情報を提供するためですが、証券取引法上の有価証券報告書に記載すべき情報は決算公告で公告すべき情報よりも詳細であり、このような詳細な情報が一般に公開されているので、重ねて決算公告を義務づける必要がないからです。

【質問】
 当社は、平成18年6月某日千代田区の本社にて株主総会を開催する旨、同年3月某日に取締役会で決議し、6月の株主総会では計算書類について承認を得ました。問題はこの決算書類の公告なのですが、当社は、証券取引法に基づいて有価証券報告書の提出を怠ったことがないので、決算書類の公告を省略しようと思うのですが、このような取扱いは会社法上違法となりますか。

【選択肢】
[1] 当該事業年度の有価証券報告書を提出するならば、適法である。
[2] 常に違法である。
[3] 常に適法である。

【正解】 [1]

【解説】
 正解は[1]です。
 第4回の解説でも説明しましたとおり、株主総会の権限及び手続については、「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(以下「整備法」といいます。)90条において、「施行日前に株主総会ノの招集の手続が開始された場合」には、「なお従前の例による」、すなわち旧商法が適用されると規定されています。立法担当者の解説によれば、整備法90条の「招集の手続が開始された場合」というのは、株主総会招集決定の取締役会決議がなされた場合、という解釈がなされています。そして、株主総会招集決定の取締役会決議というのは、議題など詳細が定まっていなくとも、日時程度で構わないとされています。したがって、会社法施行日より前に、少なくとも株主総会の日時を定めて株主総会の招集を取締役会で決定しておけば、旧商法が適用されることになります。
 しかし、株主総会で承認された計算書類の公告は、株主総会の手続には含みません。従って、整備法90条が適用される株主総会において承認されたまたは当該株主総会に報告された計算書類の公告も、旧商法ではなくて、会社法において定める手続に従い行なわれます。
 なお、整備法には、株主総会の手続等につき定める整備法90条とは別に、計算に関する経過規定として、施行日前に到来した最終の決算期に係る旧商法281条1項各号に掲げるものおよびその附属明細書の作成、監査および承認の方法については、なお従前の例による旨の規定(整備法99条)が存在します。
 しかし、計算書類の公告は、「作成、監査及び承認の方法」のいずれにも含まれないため、整備法99条の定める手続に従い承認された計算書類であっても、その公告手続については会社法の規定が適用されることには、変わりがありません。
 そして、新会社法は、有価証券報告書提出会社は、当該有価証券報告書を提出している事業年度に係る貸借対照表について、公告・開示を要しないとしています(会社法440条4項)。
 したがって、施行日前に終了した営業年度(事業年度)に係る貸借対照表は、整備法の施行日以後に作成されるものも含め、いずれも会社法の規定に基づき作成されたものとみなされ、そのような貸借対照表の公告であっても会社法が適用される結果、当該事業年度に係る有価証券報告書が提出されていれば、公告・開示等は必要ないことになります。

 

※ 本記事は平成17年に「新会社法QA」として掲載されたものです。その後の法改正はこちらをご覧ください。

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