鳥飼総合法律事務所

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【連載】「働き方改革につながる!精神障害者雇用」第1回 新しいタイプの障害者

 
投稿者
小島健一
取扱分野
コンプライアンス
人事・労務
鳥飼総合法律事務所
 

 上昇する法定雇用率を遵守するべく、障害者を新たに雇用しようとすると、精神・発達障害のある求職者が多いことに驚かれるでしょう。精神・発達障害のある労働者の雇用は、これまで障害者雇用の大部分を占めていた身体・知的障害のある労働者と同じように行っているのでは、なかなか上手くいきません。外部の助言者や支援者も適切に活用しなければ、深刻な労働紛争をひきおこしかねません。しかし、真剣に取り組めば、障害者雇用に限らず、従業員全体の「働き方改革」の決め手になります。

 労働新聞社様のご了解をいただき、昨年3ヶ月に亘って「労働新聞」に連載させていただいた「働き方改革につながる! 精神障害者雇用」(全12回)を、順次、当ホームページで公開して参ります。紙面のPDFもダウンロードしていただけますので、ご活用いただければ幸いです。

 

【第1回 新しいタイプの障害者】

  生産性向上の決め手
  就職件数は今後さらに増加

 

◇90年代後半に相談増

 筆者は人事労務の分野を専門とし、企業を依頼者として助言と紛争解決に従事してきた法律実務家で、精神科医療や障害者福祉の専門家ではない。

 しかし、いよいよ「働き方改革」が動き始め、来年(注:2018年)4月の法定雇用率引上げを見据えて多くの企業が障害者を活発に採用している今こそ、日ごろ企業の人事労務を支援している立場から、精神障害者雇用を成功させる方法を発信し、同時に、精神障害者の働く力を信じ、その支援を地道に続けておられる先達の活動を広く世に知ってもらう意義があると思い、筆を執った。

 はからずも勉強不足や理解の浅薄さを露呈するかもしれないが、読者におかれては、率直なご指摘、ご意見を頂戴できれば幸甚である。できる限り対応し、議論を深める所存である。
実は、筆者自身にとって、このテーマは長年の懸案の延長線上にある。さかのぼること20年前の1990年代の後半、日本経済が長期低迷と産業構造の大きな変動期に入った頃から、企業からの人事労務の相談として、対応困難な遷延化したメンタルヘルス不調や、一方的な主張による激烈なハラスメント告発などの逸脱行動が目に見えて増加したように思う。

 そのような事案は、残念ながら、最終的に当該社員の退職という結末で終わることが多かったが、筆者は、そこに至るまで、当該社員との間接的なコミュニケーション(当該社員と直接やり取りするのは役員や人事担当者だが、筆者はそのカウンセリングとコンサルティングを行い、メールや手紙の作成を支援した)と当該社員の過去のエピソードの振返り(時には10年、20年とさかのぼることもあった)により円満な解決を試みた。このようなかかわりを通じて、少なくとも労使双方にとって学び直しの機会になったという手応えとともに、もっと早い時期にアプローチすれば、結果は大きく違ったかもしれない、という忸怩たる思いを抱き続けてきた。

 当時、人格障害、特に境界性パーソナリティ障害がブームになっていたことから、右のような対応困難な社員の振舞いにその可能性を感じていたが、それにしては不器用で、独自の考えに固執することがめだっていた。思い返すと、むしろ、発達障害の特性によるストレスや不適応から、二次障害としてメンタル不調や逸脱行動につながっていたのではないかと考えると合点がいった。実際、彼ら・彼女らの中には、今日では発達障害の本質といわれている感覚過敏によるとみられる不可解な言動(たとえば、自分の机の周りに手製のバリケードを築く)がみられることもあった。

 

◇雇用の出口から入口

 このような雇用の〝出口〟での経験から、自ずと、雇用の〝入口〟の段階から一貫して職場のメンタルヘルスにかかわりたいという思いが強まっていったところ、数年前、すでに10年近く精神障害や発達障害を持つ方たちに特化して就労訓練と職場実習を丁寧に行うある就労支援事業所の方々に出会った。そこでは、一般企業に就職した後も継続して本人と会社の双方をサポートすることにより、障害者に安心と働きがいを、企業に業務プロセスと職場風土の変革をもたらし、驚異的な職場定着率の実績を上げていた。

 この出会いが、企業が精神障害者雇用に力を入れることこそ、職場のメンタルヘルス対策、さらには「働き方改革」による生産性・創造性の向上の決め手になるという今日の確信につながっている。

 

◇あらゆる職場に関係

 障害者雇用は、いわゆる「障害者枠」や特例子会社に限った事がらではない。企業のすべての従業員とあらゆる職場にかかわる事がらである。このことは、精神障害者をはじめとする新しいカテゴリーの障害者の就職者数の増加と合理的配慮提供義務の立法により決定的なものとなった。

 かつては、障害者雇用といえば、身体障害者と知的障害者がその大半を占めてきた。しかし、近年、精神障害者が激増しており、今後さらに多くなると予想される。ハローワークの障害種別の毎年の就職件数において、平成18年度に全体の15.3%に過ぎなかった精神障害者は、平成25年度には身体障害者と知的障害者を抑えてトップになり、平成28年度は44.4%にまで達した。

図

 

 「その他の障害者」(発達障害者、高次脳機能障害者、難治性疾患患者等)も増加率は目覚ましく、平成28年度には4.9%を占めるに至った。両者を合わせれば、就職件数のほぼ半分は、これら新しいカテゴリーの障害者で占められている。そこに共通するのは、多くの場合、一般の職場で通常の仕事を経験し、高いスキルを身に付けているので、その能力を発揮してもらうために、健常者と一緒に働いてもらうのがふさわしいことである。

 ところが、新しいカテゴリーの障害者は、外からは障害が分かり難く、障害と疾病の両面を持っている。精神障害を代表として、症状に波があり、就業能力や勤怠が不安定になりやすい上、職場のストレスやコミュニケーション不足にも敏感に反応し、調子を崩すなど、就労継続に課題が大きい。本人の障害受容と自己理解とともに、社内の産業保健職、外部の医療機関や支援者(ジョブコーチ等)との緊密な連携、そして何よりも、職場の上司と同僚の理解・協力が強く求められるゆえんである。

 

初出:労働新聞3131号・平成29年10月9日版

 

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